FASB『概念フレームワーク』の主要特徴

FASB「概念フレームワーク・プロジェクト」

197466日付『FASB討議資料・会計・報告のための概念フレームワーク:財務諸表の諸目的に関するスタディー・グループの報告書の検討』の公表

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一連の『財務会計概念書』の公表

1930年代初頭以後、ほぼ70年にわたるアメリカ会計原則設定史の中で画期的な意味と内容

直接的かつ決定的な影響

イギリス、カナダ、オーストラリアにおける「概念フレームワーク」

IASC『財務諸表の作成・表示に関するフレームワーク』の設定

韓国の改正『企業会計基準』(1996.3

ロシアの『会計法』(1996.3

(1)「会計基準を設定するための基準」としての「概念フレームワーク」

「概念フレームワーク」

首尾一貫した「会計」基準を導くことができ、また、財務会計と財務諸表の性質・機能・限界を規定する相関連する諸項目と諸原理との整合性的な体系

・決して会計基準(会計原則)あるいはその構成部分としてではない

・会計基準とは相対的に独立した別個の理論体系(メタ基準)

第一の特徴

一般に認められている概念フレームワーク」あるいは「一般に認められている会計理論」であり、しかも、個人的にではなくFASBによって組織的に形成された「理論」であるという点

(2)「古典的アプローチ」から「「意思決定・有用性アプローチ」への転換

第二の特徴

従来支配的であった「古典的アプローチ」から離脱して「意思決定・有用性アプローチ」あるいは「意思決定・有用性モデル」を採用していること

「概念フレームワーク」のその他の諸特徴を規定する基軸的な特徴

会計上の記録・計算の対象ではなく、会計情報の伝達先・情報利用者の側に、したがって情報の客観性に秘して情報の主観性に重点を移し、その結果、懸案の解決の可能性を与えると同時に認識・測定上の新たなる問題を惹起する可能性をも潜めている

(3)「一般目的外部財務報告」―財務諸表等の作成・公開目的の拡張と限定

「財務報告」の目的

「意思決定・有用性アプローチ」に基づき、「経営および経済的意思決定を行うために有用な情報の提供」

  ↓このようなアプローチ

極めて多様な情報利用者のニーズに応じたいわば無数の特殊目的

財務報告の必要性をさらす

第三の特徴

必要性を限定するために「一般目的外部」財務報告という目的規定を行うとともに、他方では、一般目的外部「財務報告」という規定によって、「会計報告」もしくは「財務諸表の作成・公開」という伝統的な目的規定の拡張を試みていること

目的規定

「認識基準」および「画定基準」が提起される伏線として極めて重要な意味

(4)「会計選択」と会計情報の質的特徴の階層的構造の画定

第四の特徴

「会計選択」という概念を適用し、「会計情報の有用性を最大限に高めるために」、選択可能な会計方法のうち最も方法を選択するにあたって追求されなければならない「情報の特徴あるいは特性」、すなわち「情報を有用ならしめる要素」の階層的構造を初めて明確に提示していること

注目すべき点(3点)

・「概念フレームワーク」が「基準設定のための基準」であることと関連して、「会計選択」が、「少なくとも二つのレベルで」、すなわち、@会計基準設定主体による会計選択とA会計基準適用主体による会計選択という二つのレベルで行われること

・「会計選択」の範囲が極めて広汎であり、@資産・負債、収益・費用など財務諸表の構成要素の性質と定義、ならびにこれら項目の認識基準の選択はもちろんのこと、A測定されるべき資産の属性の選択、B原価の配分方法の選択、C公開されるべき情報の統合化と分割レベルに関する選択、D決算日、財務諸表の見出しの形式、脚注・補足情報に注記されるべき事項、用語等の選択にまで及ぶこと

・「会計情報の質的特徴の階層的構造」のなかで認識・測定の主観性と客観性とが「目的適合性」と「信頼性」とのトレードオフの関係として提起されていること

ex)「測定属性」に関する「会計選択」の基準として適用した場合

従来のごとく取得原価主義に固執することなく何らかの種類の時価を導入する可能性を拓く

→『財務会計概念書第5号』におけるいわば「原価・時価混合基準」の採用、近年における全面時価主義への急激な移行は、まさにこの可能性の現実化

(5)「財務諸表の公正諸要素の定義」における「資産・負債中心観」への転換と包括利益概念の提唱

第五の特徴

1930年代以降支配的な地位を占め続けてきた「収益・費用中心観」を否定し、新しい装いのもとに再び「資産負債中心観」を提起していること

  ↓その結果

「包括利益」という全く新しい利益概念が提唱

利益概念

「資産」→「負債」→「持分」→「持分の変動=包括利益」

1960年代初頭以後胎動し始めていた「損益計算書中心主義」から「貸借対照表中心主義」への転換

(6)「認識」概念の質的変化―「認識基準」と「確定基準」との統一的把握

第六の特徴

「認識」概念を「収益」はおろか「資産」の範囲を越えて会計上のあらゆる項目にまで拡張し、また、それを単なる期間的区分に関わる概念であると理解するにとどめるのではなく、財務諸表本体に開示される情報と財務諸表本体以外の財務報告手段に開示される情報との協会を区分するための概念に意味転換していること

・「財務報告」という目的規定と密接に関連する「認識」概念の規定

・「認識基準」と「画定基準」との統一的把握

「意思決定・有用性アプローチ」的理解を表現するもの

 

<参考文献>

津守常弘『会計基準形成の論理』森山書店、20022