8章 持続的発展と会計−価格と価値との相克−

1.持続的発展と会計

(1)技術発展の加速化と会計

高度情報化社会への過渡期(ボールディングス)

文化社会に対比される文明後社会、技術的社会

技術の支配(マンハイム)

集中化を助長

少数者支配や独裁を促進する傾向

中枢的地位の確立による計画化

可能となったのみならず不可避

(2)会計発展の時代区分と動態的考察

50年前

株主に年次財務報告書を提出したり、それを監査するということは比較的まれな出来事

会計発展の歴史〜3段階

1段階(第2次世界大戦中あるいは戦後(1940年代))

原価会計、原価・生産統計、原価分析さらには政府会計、計画・プログラム、予算方式と、下なり軍事生産、生産性、公共プログラム等

2段階(戦後の比較的平和経済下)

税務会計、経営管理サービス、経営科学、費用・便益分析、意思決定論、情報システム論、サイバネティックス、コンピューター、トータル・システム設計と、会計学以外の学問・技法の援用によって科学的色彩が強化され、情報化時代に対応した企業活動の量的発展と合理化、これに対する組織的再編成

3段階(1970年代以降)

社会会計、人間資源の価値、人間行動へのその重心を移行させつつあるところの、生活の質を中心とした社会的・文化的レベル向上を指向する会計理論の形成期

(3)情報化社会における会計の課題

高度情報化社会

・会計情報を中心とする情報全般の加速度的な発展

→無意識あるいは故意に隠蔽されていた事実あるいは事象が明らかにされる

・個人としても経済活動に直接参入することが可能

・経済活動の国際的展開

→為替変動、貿易修士、比較優位、規制問題、算入などに関するリスク、コンフリクトに関して、会計を含む国際的基準・評価・監査、企業経営責任についてのコンセンサスがかなり速い速度で確立される

⇒展開

経営者の責任の所在、分配の公正性、資源利用の公正性と適正性、労働・資金などに関する努力と成果の直結、生きがいのある労働、物質的占有にかかわる精神的満足感の充実などが徐々に実現される

理念

公正・正義

2.持続的発展の条件

会計理論の基本的研究領域(ベッドフォード)(3点)

(1)社会目標、組織目標、個人目標の本質に関する研究

(2)測定値の人間活動に対するインパクトとの研究

(3)情報と測定の本質に関する研究

伝統的な制度会計を含む文化会計の特質

(1)会計情報のセグメンテーション(利用者指向性)

(2)ミクロ・マクロ情報の統合化(市場システムの補完機能)

(3)任意的・自発的情報の開示(アピール性・貢献性)

持続的発展の成立に関する2つの概念(ルーベンスタイン)

@必要性

世界の貧困の本質的必要性の概念(最も重要な優先順位)

A現在及び将来の必要性を充たす環境の能力に関して、技術や社会的組織の状況のもとに制約される限界の考え方

持続企業の条件(ルーベンスタイン)

(1)長期ビジョン

(2)ステークホルダーの管理会計

(3)資産概念の拡大

(4)2世代のルールの設定

(5)持続的利益

(6)貧困の企業悪説

持続的発展のための3つの要因(ルーベンスタイン)

(1)経済的持続性

@     コストの競争性

A     需要の持続性

B     イノベーションの持続性

C     利益の持続性

(2)需要と配分の公正性

@     財・サービス・用役の公正な配分

A     富の公正な移転

B     持続的な投資利益率

(3)生態的持続性

@     自然資本の持続性

A     ストレス荷重の持続性

B     生命の持続性

3.新しい文化規範の確立

(1)文化の国際的比較・国際的収斂

会計に対する文化的影響

国家の文化的指向性を反映する側面(ホーフステッド)(4つ)

(1)個人主義対集団主義
(2)権力格差の大小
(3)不確実性回避の強弱
(4)男性化対女性化

社会的価値と会計的価値との関連性

(1)専門職主義
(2)画一主義指標
(3)保守主義
(4)秘密主義

世界50カ国の社会的価値指標(表81 P160

我が国の特徴
(1)個人主義が低い
(2)プロフェショナリズムが低い
(3)権力格差が中位で画一性が高い
(4)不確実性回避が高い
(5)画一主義、保守主義が極めて高く、また秘密主義が相対的に高い
(6)男性化が調査国家の中で最高を示し、アジア諸国の中で秘密主義が中位レベル

(2)会計の文化向上への役立ち

企業組織の文化向上への貢献への会計の課題

(1)社会的開放

企業、組織のオープンド・システム化に対するものであって、保ユ資産・施設・スタッフの社会的開放、労働の移動性、技術的供与・提供などによる企業秘密の稀薄化、資金調達の国際化、企業立地の国際化

(2)社会的還元

企業が有する組織力、スタッフ、情報、技術、施設、利益など、広義の利害関係者を中心とする地域社会、教育、医療、文化などに関する公共プログラムあるいは国際的事業、諸機関などに対して、無償あるいはコスト・ベースなどによる還元

(3)社会的共有

ミクロ観から視点を転換して、マクロ的観点すなわち社会的・国際的価値かな類は社会的価値尺度をもちテ測定しなおすという作業をすれば、それは社会的、あるいは国際的な貧富の格差、生活水準のレベル差の是正、食糧不足、飢餓の解消、人工的・自然的災害の救助

(4)経済的取引の革新

企業のケース・スタディ
@     テキサス インスツルメンツ−取引契約の選択条件−
A     NECの「グリーン調達」
B     プライア−パッチ・ネットワーク

文化規範の確立(ルーベンスタイン)

企業の持続を高度の可能なものとするような代替的文化規範があることを、経営担当者に納得させることが必要

  ↓

持続的発展のための会計は、よりベターな意思決定を可能となしうる合意が高まる

4.組織体の成長性・発展性の課題

企業組織

株主、債権者という指摘視点から、社会的市民としての視点をもとりいれた意味での文化規範の策定という課題

 

(1)伝統的な財務報告会計の時代

  ↓

(2)経営実態開示を重視する時代

  ↓

(3)政府および企業組織の市民化する時代

→経済主体の財務報告と非財務報告を網羅していく意味での文化会計の確立の要請

文化規範の確立

外部要因

(1)制度上の差異

(2)社会的・文化的差異

今後の課題

(1)国際的な社会、文化情報へのアクセス

(2)国際的な企業経営対策

(3)国際政治会計の貢献的側面と会計人の政治勢力化

 

<参考文献>

木下照嶽、中嶋照雄、柳田仁編著『文化会計学−国際会計の一展開−』税務経理協会、20026