FASB概念フレームワークにおける資産負債アプローチの簿記システム

FASB:概念フレームワーク・プロジェクト

1974

討議資料『会計および報告のための概念フレームワーク:財務諸表の目的に関するスタディ・グループ報告書の検討』

1976

『営利企業の財務諸表の目的に関する暫定報告』

討議資料『財務会計および財務報告のための概念フレームワークにかかわる問題の検討:財務諸表の構成要素およびそれらの測定』

『概念フレームワーク・プロジェクトの範囲および意味』

『営利企業の財務諸表の目的に関する暫定報告』

財務諸表の目的

経済的意思決定を行うものに有用な情報を提供すること

  ↓

討議資料『財務会計および財務報告のための概念フレームワークにかかわる問題の検討:財務諸表の構成要素およびそれらの測定』

財務諸表構成要素の定義・認識・測定をめぐる問題の検討

・利益観

資産負債アプローチ、収益費用アプローチ、非連携アプローチ

→それぞれのアプローチに基づく財務諸表構成要素(資産、負債、資本、利益、収益、費用、利得、損失)の定義を展開

1978年〜1985

6つの財務会計概念報告書(SFAC)を公表

意思決定有用性アプローチのもとに

資産負債アプローチの採用

→それに依拠した財務諸表構成要素の定義

 

FASBはかかる資産負債アプローチにおいていかなる簿記計算システムを想定していたのであろうか?

  ↓

FASB概念フレームワークにおける資産負債アプローチの簿記計算システムについて検討

1976年討議資料に基づく資産負債アプローチにおける簿記計算システムの特徴

FASB1976年討議資料

資産負債アプローチ

収益費用アプローチと共に連携財務諸表を前提をする利益測定アプローチを捉えている

複式記入発生主義会計は連携を定式化したもの

特徴←検討

→簿記計算システムの有する基本的特徴を明らかにする

利益

一定期間における営利企業の正味資源の増加測定値

資産・負債の増減額

収益

当該期間における資産の増加および減少

費用

当該期間における資産の減少および負債の増加

*資産・負債

→当該アプローチの鍵概念

その他の財務諸表構成要素(所有主持分または資本、利益、収益、費用、利得、損失)

資産・負債の差額または資産・負債の属性測定値の変動額として測定される

簿記計算システム

 ↑

資産負債アプローチの有する基本構造に規定される

認識

一時認識

資産および負債の定義に依拠してその変動が生じた時

  ↓

当該期間の収益および費用項目のすべてが把握される

二次認識

利益計算の観点から見越し及び繰り延べの手続を行う必要はない

⇒資産および負債の適切な定義と測定の必然的な帰結として収益と費用の適切な対応がもたらされる

 

実現・対応という非操作的概念を用いる必要性がない

→簿記計算システムは完全に操作性を有する

1976年討議資料に基づく資産負債アプローチにおける簿記計算システムの操作性

資産負債アプローチにおける簿記計算システム

  ↓理論的に

完全な操作性を有している

Q.実質的にも操作性を有しているのか

操作性に疑いを抱かせるような表現

1976年討議資料

背後にある利益測定モデル

 ↓明らかにして

当該利益測定モデルの有する基本特性に基づいてその簿記計算システムの有する操作性について分析する

資産負債アプローチ

資産・負債の変動に基づいて取引が認識

  ↓

資産・負債の変動

資産・負債の属性測定値の変動額として測定される

利益

Q1 P1t1 +Q2 P2t2 + ・・・ + Qn Pntn

Q:取引数量、P:価格

(1)個別取引の有する時点性に着目する方法

各項は取引時点(ti)における属性測定値に規定されていることから、それを特定時点(決算時点)における属性測定値に修正するという方法

→測定属性として特定時点における何らかの時価が採用される

(2)個別取引の有する時点性を無視するシステム

各項は取引時点(ti)における属性測定値に規定されていることから、それを異なる観点から解釈しなおす

各項を現金収支額として解釈

→測定属性としてか別取引の取引時点における取得原価が採用

(1)基本的思考

財貨動態が想定

測定属性

特定時点における何らかの時価の採用が要請

取引として数量の変動に基づく取引のみならず価格(測定属性)の変動に基づく取引も認識される

時価を示す測定属性

現在価値(現在現金受領額)、現在払出価値(現在市場価値)、期待払出価値(正味実現可能価値)、期待キャッシュ・フローの現在価値

後者3

キャッシュ・フローの変動に基づいて統一的に把握される

→「実現」項目と「未実現」項目との区別は目的適合的ではなく、「対応」は不必要になる

⇒高い操作性を有する

(2)基本的思考

貨幣動態が想定

測定属性

個別取引の取引時点における取得原価の採用が要請
取引として数量の変動に基づく取引のみが認識される
  ↓簿記計算システム
取引が資産・負債の数量の変動に基づいて非連続的に把握される
→資金の投下過程から回収過程への変換点の認識が必要
収益および費用の認識基準を設定することが必要
⇒低い操作性しか有さない

SFACにおける資産負債アプローチの簿記計算システム

利益測定モデルの選択

→簿記計算システムの操作性に相違が生じる

SFAC

資産負債アプローチ

その利益数値が論理的にしみのある結果をもたらすために、選択可能な複数の利益測定モデルの中から個別取引を現金収支と解釈することによって、その取引のもつ時点性を無視するという第2の利益測定モデルを採用していたといえる

簿記計算システム

取引として数量の変動に基づく取引のみが認識される

取引は資産・負債の数量の変動に基づいて非連続的に把握される

  ↓

資金の投下過程から回収過程への変換点の認識

収益費用の認識基準を設定することが必要

SFAC5

2つの利益概念

稼得利益

包括的利益

稼得利益

現行会計実務における純利益と類似の概念

*当期に認識される前期損益修正の累積的影響額が含められないため、会計原則の変更にともなう累積的影響額が含められている現行の純利益とその点で異なっている

包括利益

出資者による投資および出資者への分配から生じる持分の変動を除く、取引ならびにその他の事象および環境要因からもたらされる一会計期間の実体の持分について認識されるすべての変動から構成されている

2つの概念に相違をもたらす項目(包括的利益には含められるが稼得利益からは除外される項目)

@会計原則の変更にともなう累積的影響額のような当該会計期間に認識される前期損益修正の影響額

A固定資産として分類されている市場性ある持分有価証券に対する投資の時価変動、市場性ある有価証券について特殊な会計実務慣行を有する業種における投資の時価変動および外貨換算調整勘定のように当該会計期間に認識される純資産のその他の変動

収益を認識する指針(要件)

@実現または実現可能

A稼得

費用を認識する指針(要件)

@経済的便益の費消

A将来の経済的便益の損失または欠如

稼得利益の内訳要素を認識するための指針の提示

  ↓実際には

収益および費用の認識基準を明示している

 

<参考文献>

高須教夫「FASB概念フレームワークにおける資産負債アプローチの簿記計算システム」『産業経理』第56巻第2号、産業経理協会、1996