利益概念と情報価値

課題

利益の概念と情報価値(株価説明力)

T.利益概念の二元化=非連繋問題の発生と展開

利益概念をめぐる問題状況

ストック評価とフロー測定の乖離に根ざした利益概念の二元化

二元化

利益概念の「純利益」(net income)と「包括利益」(comprehensive income)への二元化

背景

基準設定の指導原理となる会計観の収益費用アプローチから資産負債アプローチへの転換

資産負債アプローチの理論的含意

「用役可能性」の実在性にもとづいて資産・負債の認識・測定を行い、貸借対照表で表示される会計情報のリアリティを回復・改善する

→利益(包括利益)

資産と負債の差額である持分の期間増加額

  ↓その際

損益計算書で表示される利益(純利益)の決定

収益と費用の対応

⇒貸借対照表で表示される利益と損益計算書で表示される利益の間に不一致が生じる

⇒非連繋問題の発生

 

利益概念をめぐる問題状況の展開とそこにみられる特徴点

@

FASB概念フレームワークでその発生が概念的に示唆された非連繋

資産負債アプローチに基づくストック評価を指向する一連の基準設定活動を通じて顕在化し、しかもその問題性が質量の両面にわたって漸次拡大してきた

非連繋の顕在化に深く関わった基準

SFAS1151993

金融商品の公正価値評価を原則的に要請とし、売却可能証券の評価損益の持分直入を規定
ストック評価とフロー測定の乖離を具現した基準

A

包括利益の報告様式を規定したFAS130の設定

FAS130

純利益と包括利益の差額を収容するために、「その他の包括利益」なる新たな利益概念を導入し、純利益を包括利益の内訳項目とすることによって、利益概念の整序(連繋の回復)を図ろうとした

包括利益

・損益計算のボトムラインとして位置付けられていない

・業績指標としても位置付けられていない

「その他の包括利益」

積極的な意味をもたない曖昧な利益概念が新たに導入

→利益概念をめぐる問題状況はさらにいっそう複雑さを増す結果

B

包括利益やその他の包括利益の情報価値に関する多くの実証研究

・これらの利益には(増分)情報価値が認められない

・情報価値の点では純利益が依然として比較優位性を維持

基準設定の局面

利益概念の包括利益への一元化の主張が執拗に繰り返されてきた

  ↓こうした主張

認識・測定問題をめぐる議論においては、金融商品の全面時価評価の提唱や、収益認識基準としての実現の否認の提案と結びつくもの

○相互補完的な関係

利益測定から「経営者の意図」を極力排除しようとする点

U.会計の本質的機能としての実現利益の決定

会計の本質的機能は何か

利益情報(辻山)

事後の事実によって投資家の事前の気体の成果を確認し、期待を事後に修正して、新たな期待を形成するための情報としての機能を担わされている

→そのような機能を担う利益情報を提供することが会計の機能

  ↓この命題

意思決定有用性アプローチの論理をも包摂する形で、会計の情報機能を適確に定式化したもの

利益

「キャッシュ・フローに対する事前の期待」のうち「実際」に「実現」下部分

→つねに「実現利益」といて与えられる

実現

「実現可能性」をも含めた広い意味での実現

「キャッシュ・フローに対する事前の期待」にかかわる成果を事後に確認

成果の発生形態の相違

投資を事業投資と金融投資に2区分する必要

→投資成果の認識基準である「実現」の規範的含意

事業投資と金融投資で異なってくる

○事業投資

事業投資の実施

当該投資に期待される企業特殊的価値(のれん)が非負の場合

事業投資に関わる企業経営者の経営目標

企業特殊的価値を期間収益(キャッシュ・フロー)に変換すること

事業投資の成果

当該投資資産の利用を通じてどれだけ期間収益が稼得されたか

投資成果の認識基準としての「実現」

・他の実体への財貨の提供

・対価としての流動資産の受領

2つを要件とする伝統的な実現を基本的に含意する

事業投資の企業特殊的価値と当該投資資産の時価(公正価値=市場価格)は関連性をもたない

⇒成果認識において資産の時価評価は無意味

○金融投資

金融投資

企業特殊的価値は存在しない

金融資産は誰が保有していても、そこからえられるキャッシュ・フローは変わらないから

時価が変化した時点

当該時価が当該資産の価値すなわち投資成果をあらわす

時価評価差額

当該投資から生じたキャッシュ・フローとして認識される

投資成果の認識基準として「実現」

資産をいつでも自由に換金でき、しかも換金によって当該資産の価値に変化が生じないという意味での実現、FASB概念書の用語でいえば「実現可能」を含意

*戦略的投資(関係会社株式等)やキャッシュ・フロー・ヘッジ目的で保有される金融資産

広い意味での企業特殊的価値をもつことがある

@

実現利益の決定

会計を会計たらしめている最も本質的な機能

  ↑

複式簿記機構をつうじた記録・計算と会計人の専門的判断が不可欠

実態的な含意は「業績利益」

A

純利益(実現利益)

包括利益によっては決して代位しえない利益概念

事後の事実によって投資家の事前の期待の成果を確認し、期待を事後に修正して、新たな期待を形成するための情報

  ↑

包括利益にはそのような意義はない

業績利益としての意義を有する純利益

→投資意思決定に有用な情報

B

外形上の類似性に依拠して画一的なルールを会計に導入すること

純利益の決定を阻害する結果をもたらす

・金融商品の全面時価評価

→一部の金融商品が事実上の事業資産として保有されている事実を考慮しないもの

・収益認識基準としての実現の否定の主張

→純利益の決定それ自体の意義を否定するもの

基準設定者たちが自ら奉じる意思決定有用性アプローチに背く結果につながる

V.企業行動としての会計行動と「経営者の意図」の情報価値

純利益から包括利益への利益測定の重点移行という基準設定の方向性

画一的ルールの採用によって会計的判断から「経営者の意図」を極力排除しようとする基準設定者たちの信念

→理論的にも実証的にも妥当性を書いたもの

会計的判断から「経営者の意図」を排除するというようなことが、そもそも現実的に可能なのか

行動科学の観点から検討

会計的判断から「経営者の意図」を排除しようとする基準設定の現実的妥当性

会計の認識・測定対象

企業行動とその結果

→「経営者の意図」の所産

会計のみが「経営者の意図」から隔絶された価値判断の真空地帯において実施されるべき

⇒非現実的、不可能な可能性の追求

会計行動の価値依存性

情報インダクタンス(information inductance)に関するPrakash and Rappaportの議論

情報インダクタンス

情報の送り手の行動が、〔送り手みずからが送り出す〕情報によって影響を受けること

情報インダクタンスのプロセス

送り手は、受け手の潜在的反応に対処すべく、情報を送り出す前に、みずからの行動を戦略的に決定する

みずから送り出す情報によってその行動が「誘導」される

情報開示に関わる企業経営者の会計行動

×刺激(送り手の情報提供)→反応(受け手の意思決定)

○「反応」の事前予測に基づく「刺激」の戦略的選択のプロセスを通じて実施

情報インダクタンスの有無

社会的システムと物理的システムの相違をなす

情報インダクタンスの影響を受けた送り手の洗濯

1)業績の記述の修正

ex1 開示利益の管理を目的とした会計方針の裁量的変更

2)実際の行動の修正

ex2 新基準の導入に伴う企業行動の変更

3)行動目標の修正

会計とはそもそも「経営者の意図」に基づいて戦略的に実施されるものであると考える

⇒はるかに現実的

会計的判断から「経営者の意図」を排除しようとする基準設定

社会的システムと物理的システムを同一視する考え方に立脚したもの

利益情報とキャッシュ・フロー情報の有用性を比較検証した内外の実証研究

キャッシュ・フロー情報に対する利益情報の比較優位性を確認してきた

「会計発生高」を含むがゆえに「オピニオン」にすぎないとされる利益情報

客観的な「事実」であるはずのキャッシュ・フロー情報よりも、市場では有用とされてきた

利益情報はまさに「オピニオン」であるがゆえに、単なる「事実」にすぎないキャッシュ・フロー情報よりもその情報価値が高い

 

<参考文献>

藤井秀樹「利益概念と情報価値」『企業会計』Vol.55,No.1、中央経済社、20031