中国会社法における監査役制度の現状と課題

株式会社における経営管理機構

米国や英国

株主総会が取締役を選任し、業務執行機関と監督機関を取締役会という一つの機関で構成する一層制

ドイツ

株主総会が選任する監査役会が取締役を選任し、監督機関が業務執行機関から制度的に明確に分化される二層制

日本をはじめ東アジアの国々

株主総会が取締役を選任するとともに監査役を選任し、取締役会が取締役及び代表取締役などの業務執行を監督すると同時に、監査役会もそれらの業務執行を監督するという一層制とも二層制とも異なるシステムを採用

中国

199441日にようやく会社法が施行

株式制度に対する立法上、実務上の経験を欠いている

政治、経済の事情が先進国のものと相当異なる

政府と企業の分離いわゆる「政企分離」を図るため

企業経営に対する国家・行政権力の介入から企業を解放し、企業に経営の自治を与えて独立採算、自己責任を保つ企業体を確保しなければならない

企業経営の独立性の強化

取締役会(董事会)、取締役(董事)および支配人(経理)に経営上の十分な権限が与えられ、それらの地位の独立性が強調される一方、その経営に対するコントロールあるいは効果的な企業内部の自主的監督体制をいかに構築するか

中国会社法

取締役及び支配人に広範かつ強力な権限を付与

会社内部の監督システムとして取締役会による監督機能を明確にしていない

監査役会(監事会)の監査に関する規定

概括的、抽象的なものに留まっており、監査機能を保証するための制度について十分な整備がなされていない

中国会社法における監査役制度の現状と問題

中国会社法

経営に対する監督機関

取締役会会長(董事長)と監査役会の2つを規定

会計年度の終了の際監査報告書を作成し、法に基づく監査証明(審査験証)を受けなければならない(第175条第1項)

具体的な規定が会社法に存在しない

監査役制度の不完全性

取締役会自体の監督機能及び公認会計士による監査の内容など

中国会社法上の監督、監査体制

それぞれの機能の相互的関連性が明確ではなく

機能を保証するための制度も不充分

中国会社法における監査役制度形成の経緯

中国株式会社に関する監査役制度

外国法制の影響を受けたもの

中国における監査役制度

19041月清の「欽定大清商律」及び19099月起草の「公司律」にまで遡る

株式会社の機関

株主総会、取締役会及び監査役が認められた

中華人民共和国成立後

会社関連立法において最初の監査役に関する規定

19501229日に公布された「私営企業暫定条例」
有限会社、株式会社及び株式合資会社において監査役(監察人)がおかれるに至った

1956年以後

単一的な公有営経済のみ存在したため、監査役制度も80年代後半に株式会社が再登場するまで空白

企業改革の進展

1987年:株式制度が施行

1992219日:「深セン株式会社条例」

1992815日:「海南経済特区株式会社条例」

1992515日:「株式会社規範意見」(国務院)

業務執行に関する監督

監査役会の監査と取締役会会長による取締役会決議の実施状況の監督が定められ、また監査役会への従業員代表参加の規定も設けられた(深セン第115100条、海南第102115条、意見第59条の265条の2

会社法における監査役制度

90年代初期に制定された地方法規及び「株式会社規範意見」から相当な影響を受けたもの

株式会社において監査役会制度が導入(背景)

中国における株式会社のほとんどが、国有企業から転換されたもの

国有企業

形式的に党の組織、従業員代表大会及び労働組合による企業内部の監督体制が存在

  ↓いずれも機能せず

政府の各関係主管省庁による直接的管理という企業外部の監督体制に依存

中国の経済改革

政府と企業の分離および所有と経営の分離を中心として推進

株式会社制度の導入によって会社は市場の需要に応じて自主的に生産、経営活動を行なう

政府による直接的経営介入はむしろ極力排除されなければならなくなった

  ↓会社法立法における最大の課題のひとつ

取締役及び支配人に経営上の広範囲の権限を与え、それらの地位の独立性を保障するとともに、企業内部に自主的監督体制を確立すること

国有企業の従業員

従業員代表大会を通じて企業における管理と監督に参加する権利

所有者と労働者の二重の地位を持っている

国有企業から転換され、外国投資や個人投資によって株式所有されている会社

従業員の企業に対する管理と監督の機能が維持できるかが問題

中国会社法にとって回避できない深刻な課題

公有制の堅持と株式制度のバランスをいかに取るか

 ↓

中国会社法

監査役会制度を導入し、とくに従業員を参加させることにより、公有制経済の性質を株式会社制度に取り込むこととした(第124条第2項)

株式会社における従業員の地位そのものを新たに把握し直したもの

 

<参考文献>

霍麗艶「中国会社法における監査役制度の現状と課題(1)」『大阪市立大学法学雑誌』第50巻第1号、大阪市立大学法学会、20039月、P114118