会計における文化的要素

−中国、香港、台湾の会計制度、会計実務に中華文化が与える影響について−

各国にある会計制度

その国々特有の政治、経済、文化など環境要因の影響を受けて形成されたもの

文化

それぞれの社会において独自の風土と社会的要因に基いて形成され、継承されてきていることを特質としている

中華文化の特質

文化の定義(Hofstede

一つの人間集団のメンバーを他の集団のメンバーから区別することができる人間心理の集合プログラミング

中華文化

近代、20世紀の後半

中国人社会の間に生活様式や価値観の違いが生じている

根本的価値観はまだ根強く存在

ex.家庭倫理、人間関係の重視、権威権力への敬畏など

伝統的な中華文化(儒教思想)

儒教・・・「三網五常」

三網
「君為臣網、父為子網、夫為婦網」

階級、上下関係を維持し、下位が上位に従い、安定を保つことや、年長者、目上の人を敬うこと、過族や身内を大事に史、友を信用すること、それに忍耐、倹約など

五常
仁、義、礼、智、信

→企業経営に反映

勤勉に働き、倹約して財を蓄え、家族を養うために事業を起こすことや、家族的経営を重視し、親族を起用して家長的リーダーシップを選好すること、それに資本調達を身内で行い、企業経営に関する情報を秘密にすることなど

中国、香港、台湾の会計制度、会計実務から見た中華文化の影響

文化と会計との関係(Gray

P8

一国の会計制度には、その国の社会文化、さらにその社会文化の下位文化である会計文化が影響を与えるのと共に、その国の基本制度(政治、経済、法律など)や、その基本制度に基いて設定された会計規制も影響を与える。また、その国に対する外部的影響、つまり外国との貿易や外国資本の導入、外来勢力による征服のようなことや、人口、地理などその国における国内的、生態的要件も会計制度の形成において重要なファクターである。もちろん、一国の基本制度のあり方は、その国の外部的環境や国内的要件、社会価値観が相互に影響しあった結果だといえる。

1)会計制度の法的強制力について

中国

会計法

国家の法律として設定

企業会計準則

財務部が作成・公布

業種別に適用されている会計規定

財務部または各所管部署が作成・公布

企業会計準則、業種別の会計規定

会計法に準拠し作成、法令化されている
→法的強制力を有する

中国公認会計士協会(CICPA

主に監査基準の設定や公認会計士試験の実施、資格登録など

台湾

会計制度

日本と同様のトライアングル体制(会社法、証券取引法、商業会計法)

会計基準となる財務会計準則公報

財務会計研究発展基金会(セミパブリック・セクター)が作成、公布

中国および台湾

政府が主導的に会計制度を設定、強制的に適用

儒教

統治者のための思想(社会または集団の安定を考える)

統治者が中央集権的な政治体制を社会の基本的な組織原理として設定

→政府主導の会計制度

何の不自然もない

市場経済、資本市場の成熟

政府が会計制度における指導的役割が徐々に低下

→職業団体の役割が強化されていく

中国

公認会計士協会が会計基準設定に参加

上場企業をはじめ、株式発行企業に対する公認会計士による会計監査が必要

会計制度の設定

政府および団体の役割分担に変革

  ↑

政府主導のもとで進められている

香港

会計制度

公司条例、証券市場上場規定、会計実務基準書によって構成

会計実務基準書(SSAP

香港会計士協会(HKSA)(プライベート・セクター)によって設定
法的強制力がない
HKSASSAPに準拠し会計報告をするよう勧告
多くの企業はSSAPによって会計報告

植民地時代

政府が「積極的不関与」政策
→職業団体の影響は非常に大きい

2)会計制度の画一性について

会計報告や会計処理に関する規定が画一的

台湾

長い期間において会社法、商業会計法、税法のもとで会計が行われている

会計処利に関して選択があまり与えていない

中国

会計法、企業会計準則、業種別改易規定という三重構造

業種別会計規定

企業の所有形態別、業種別に設定
所定の取引について適用する勘定科目や処理方法などを規定している
→相当画一的

企業会計準則(1993)、具体会計準則(1997

IASとの調和化を意識し、柔軟性を増している

3)損益計算において保守主義

一国の会計が保守的であるか否か

資産評価や収益の認識・測定、費用の算定・配賦方法によって判断

台湾

相当保守的

香港

やや楽観的

台湾の会計

アメリカの会計制度を範としている

香港の会計

イギリス会計の香港版

イギリスから受けた影響が大きい

Gray

アメリカの基準で利益が100とする場合、イギリスの基準で計算しなおすと125になる

台湾住民

福建省出身者が多い

通常保守的といわれる

香港住民

上海や広東出身者が多い

商売向きで、冒険的

損益計算においての保守主義

費用の早期計上のような会計方法を採用

儒教

長期指向で、倹約や忍耐を美徳とする

資産測定

香港および台湾の会計に物価の上昇に応じて固定資産の再評価

→保守主義と正反対の会計方針

 ↑
見栄えまたは面子を重んじる社会文化と関係

4)情報開示について消極的

中国人社会

     家族または親族の絆を非常に重要視する

     不特定多数の人間集団の連携が弱い

そういった集団における信用度も低い

     一族経営の企業が多い

     広く一般大衆所有の大企業はほとんどない

一族経営の企業

情報開示について消極的になるのが当然

資本市場のグローバル化

企業に対してグローバルな基準で情報を開示する要請が高まっている

情報化時に関する法的整備が急速に進んでいる

台湾

会計基準設定主体である会計研究発展基金会

制定する会計基準についてIASに準拠して制定すると表明(1996年の基金会会議)

台湾企業の情報開示の特徴

A.環境に関する情報の開示

B.中国本土への投資に関する情報開示

CICPAIASCに加入(1997

現在100社以上の中国企業がIASに準拠して会計報告する

中国、香港、台湾の会計

情報提供者と情報利用者とのギャップが依然大きい

ex)香港証券取引所が、株式投資者に対して、どこからの情報に基いて株式を購入するかについて調査

61% 新聞の経済面
31% 親友
27% 雑誌
19% テレビやラジオ
3% annual reports

提供者と利用者の間のギャップが生じた原因

     社会文化と企業文化との間にずれが存在すること
     情報公開しなかったまたは虚偽があった場合、罰則規定が不十分であること
     コストが高いこと
     情報伝達手段の欠如のこと

 

<参考文献>

林慶雲「会計における文化的要素−中国、香港、台湾の会計制度、会計実務に中華文化が与える影響について−」『国際会計研究学会年報1999年度』、国際会計研究学会、1999