会計基準の国際的動向と会計測定の基本思考

IASBの動向と会計基準の国際化

組織の目的(IASB定款)

(a)公益のために、質の高い、理解しやすい、そして強制力のある一組の会計基準(a single set of accounting standards)を作成する。この基準は、世界の市場への参加者とその他の情報利用者の経済的な意思決定に役立つように、財務諸表ならびにその他の財務報告における質の高い、透明な、そして比較可能な情報の提供を求めるものである。

(b)この基準の利用と厳格な適用を求めるものである。

(c)各国基準とIASとの質の高い解決に向けた統合(convergence)を達成する。

→世界的な統一基準になることが予定されている

IASCIOSCOとの連携

表1 IASCIOSCOの連携(P26

IASC1998年末):包括的コア・スタンダードの完成

  ↓

IOSCO2000年):IASへの支持

多国籍発行体がIASを用いて作成した財務諸表を受け入れるように勧告

欧州委員会(20006月)

EUの上場企業の2005年からのIASに基づく連結財務諸表の作成の強制

日本

海外企業がIFRSに準拠して作成した財務諸表の無条件の受け入れに対していまだ慎重な態度

EU

IASを国内基準としても受け入れることを明確に表明

⇒二極分解

 

IASB

@     既存のIASIFRS)のよりいっそうの改善に向けたプロジェクト

A     各国基準とIFRSとの統合を目的としたプロジェクト

→ジョイント・プロジェクト方式[1]

問題

「会計基準の基本的な枠組み」に関するコンセンサスがほとんど形成されていない

     「質の高い会計基準」の「質」とは何をさすのか?

     市場の情報要求に対して目的適合的な情報とは、具体的に何をさし、どのような構造であるべきか

世界的な統一基準はどのようなものであるべきかという議論が置き去りにされたまま

IASBG4国の会計思考

IASBの構成メンバー

理事会(IASB) 9/14(約65%

評議会 8/19(約42%

基準諮問会議 17/44(約39%

G4国の出身者

IFRSの制定の出発点として新しい組織の中で会計の基本的な枠組みに対する再検討ないしは再確認がなされない以上

  ↓

G4国の会計思考によって大きく方向付けられる可能性

 

Ex)近年のIASBにおける「業績報告」プロジェクト

「業績報告」プロジェクト

  ↑

利益概念と密接不可分な関係にある

 

なぜ「業績報告」プロジェクト?

国際的な比較可能性に対する要求の高まりの中で、財務報告の中で最も中心的な地位にある財務業績報告について、各国の基準設定主体が強調する余地が大きい(1998年のG+1の特別リポートの認識)

  ↑というより

     IFRSの策定の前提の利益概念

     業績の概念に対する世界的なコンセンサスの形成

議論の出発点

「包括利益」、「総認識利得損失」概念の定義

当該期間の利益は、その期の株主との取引を除く持分(純資産)の変動に等しい

=「業績」の指標と同義

→「開示方法」の標準化に焦点を絞って議論

「包括利益」

企業のストック(純資産)の資本取引を除く期間

評価差額

この利益には、その気に認識されたすべての収益、費用、利得、損失が反映されているから、経済的意思決定を行なう際にはその気に企業の所有者の富に影響を与えたすべての要素を考慮に入れることができることになり、有用な利益概念である

  ↓

IASBの基準設定を牽引きする有用な見解になる可能性が高い

FASB

プロ・フォーマ問題

企業が一般に認められた会計原則に基づく利益開示の枠外で、自己の業績を説明するために任意の形式で加工された利益数値を開示すること

*日本

「業績報告」に関するプロジェクトがスタートする予定

利益計算をめぐる二つの会計思考

世界の二つの異なる会計思考

@     会計情報の中核はあくまでも利益情報にあると捉え、企業活動のフロー情報としての利益情報に主たる情報価値を認める考え方

A     ストックの評価を含めた企業実態の開示に会計情報の意味を求める考え方

→伝統的な利益概念の意味の棄却

イギリス:財務報告基準(FRS)第3号「財務業績の報告」

包括利益概念に基づく業績報告

「総認識利得損失計算書(STRGL)」

特徴

一、資本に直入されてきた様々な項目のすべてを明確に「業績」と位置付けて、「業績表」であるSTRGLに明記

二、一度業績として認識されたすべての金額は、その後に実現等に基づく再分類表示(リサイクル)をしない

*情報セットアプローチの発想

イギリス版概念フレームワーク

「財務報告原則」の公開草案

財務報告原則

  ↓そのままの形

G4+1のディスカッション・ペーパー、ポジション・ペーパー

G4+1の一連のレポート

今後の業績報告のあり得べき姿として提唱されている方法

伝統的な利益計算そのものの放棄

実現・未実現を問わず、資本取引を除くすべての認識された純資産期間変動差額が業績

  ↓

(a)主要な営業活動

(b)資金調達およびその他の財務活動

(c)その他の利得損失

三区分に分けて業績を報告

構成要素アプローチ(情報セットアプローチ)(ASBないし、G4+1が提唱)

可能な限りストックそれ自体が時価評価されることが望ましい

ストックの期間評価差額が利益ないし業績を表す

伝統的な実現利益がこれまで担っていた

情報利用者の意思決定にとっての「インプット」情報としての会計の利益特性

  ↑

「包括利益」ならびにその構成要素とは異種

のれん価値を含む企業価値の評価

企業のキャッシュ・フロー生成能力の制定が不可欠

  ↓

キャッシュ・フローの配分情報としての利益情報

 ↑

会計思考

日、FASBの中でいまだ堅持されつづけている

 

G4国とEU

利害が会計基準の「統合化」という点で一致している

日本の会計基準

あくまで自立的なもの

国際会計基準との無益な乖離は許されない環境下

日本固有の経済環境をどのように国際会計基準の設定にフィードバックさせていくか

  ↓

国際会計基準の規定に横たわる会計思考の是非を改めて国際的に再吟味していくように働きかけることが課題

 

<参考文献>

辻山栄子「会計基準の国際的動向と会計測定の基本思考」『会計』第161巻第3号、森山書店、20023



[1] 各プロジェクトに対して、各国の基準設定主体が(1)リード、(2)モニターの2種類のうちいずれかの形でIASBと協力しながらプロジェクトを推進する方式。当初は、この中間形態として「サポート」という形のコミットも提案されていたが、結果的にはこの2種類の協力形態が採用されることになった。