中国財務ディスクロージャーと監査制度論―社会的アプローチ―

社会的アプローチ

特定の国の制度を考察する際、制度の歴史的依存性、政治的依存性、文化的依存性などを重視しながら、その制度の有効性を解明すること

制度の多様性を明らかにし、最適な制度の構築を目指す

中国会計・監査制度の時期区分

1949年から今日までの会計・監査制度の改革と発展の時期区分

・7時期説

国民党の当地歴史の存在を無視し、完全に共産党の政治事件を背景に区分

第1時期

統治政党である国民党統治地域下の会計制度が主流
ごく一部共産党統治地域下の会計制度は亜流
 ↓にもかからわず
政治的商社である共産党当地に偏る歴史観に基づいて、会計時期を区分するのは歴史的事実に反する

・4時期説

中国共産党が政権獲得後の1949年を始点に、会計理論の変革に基づいて区分

・3時期説

政治的依存性を無視し会計史は単なる制度の改良過程という観点から、中国「会計改良(会計制度改革)」の論争を根拠に区分

第1時期

政府と民間が西欧資本主義資本の進入を契機に中国固有の農業会計制度を改良しようとした時期
政治的に農業を中心とする経済環境などの要因で西欧複式簿記思想に対する抵抗が強く、会計制度の改良は中途半端

第2時期(1949年から1977年まで)

計画経済に追いける旧ソ連型と改良中国式簿記との並存の時期
ソ連の計画経済をモデルとした改良中国式簿記が主流
都市部における少数の工業企業が採用した西洋貸借複式簿記は亜流

第3時期

1977年を始点に計画経済から市場経済への転換期も含む今日まで
国際会計基準と調和しながらの会計監査制度の全面的改革時期

中国財務ディスクロージャーと監査制度のフレームワーク

中国財務ディスクロージャーと監査制度のフレームワーク

主として会社法、証券法、会計法、登録会計師法などの法律で構成

会計法の体系

主に財務諸表の作成基準として規制

中国証券監督管理委員会

上場会社の財務諸表の開示内容と様式を規制

登録会計師法の体系

主に監査基準と監査実施準則などを規制

国務院をはじめ、証券監督管理委員会、統計局、国家体制改革委員会などの省庁

財務ディスクロージャーと監査制度に対して、どの省庁も数多くの条例、省令、通達等を発令して規制し、制度の支配権を握っている

政治に依存する支配構造

官僚主導で中央集権的

各官庁の見解

必ずしも同じではない

縦割り行政

制度に関する論理の整合性が欠け

→制度に関する「多重的なスタンダード」ができがち

  ↓結果

実務上の混乱を招く恐れがある

会社法、証券法、会計法、登録会計師法の立法機関

中国人民代表大会

一連の立法プロセスの特徴

行政が制定主体

企業会計原則の制定主体(3つの意見)

・民間組織(学会、協会)により制定公表

・財政部が制定公表

・「全国会計準則委員会」を組織し、その委員会が制定公表

現在の中国政治の現状

民間組織または会計準則委員会などの組織に委ねることは非現実的

財政部が制定主体となることは現実的

中国会計・監査制度の歴史的・政治的依存性

中央集権と権威主義的政治

権威主義の政治

中央集権システム

中国

5000年の文明ともいわれる中央集権政治の歴史

歴史的

古代「五帝」の権威、肯定の権威

  ↓そして

「権威統治」は神格化された一人の権威から組織的権威へ進化

  ↓現代では

「党」という組織

現代と古代との異なる点

古代の王と皇帝

絶対的に神格化された権威

現代の統治者

「思想と主義」をもって権威統治が行われる
EX)孫文、蒋介石…三民主義
  毛沢東…共産主義、社会主義、毛沢東思想

現代中国会計・監査思想の歴史的依存性

中国会計・監査思想

政治的イデオロギーに依存

外国会計・監査思想から影響を受けて形成

1949年から1997年まで中国における会計学の著作・訳書の統計(図表3

1949年から1969年までの期間

ソ連会計思想の影響

1970年から1979年までの期間

外国からの影響の「空白期間」

1980年以降から今日まで

アメリカ会計・監査思想の影響

会計・監査思想の影響から見る中国会計・監査史

国際政治史の影響

会計諸法則から見る会計・監査思想の依存性

会計法―歴史への依存

中国における会計法制化の象徴

1985年の「会計法」の制定

1985年の会計法

官庁、国営企業などに適用する会計

一般企業には及ばなかった

1993年改正

すべての行政、企業などの組織に適用

中国会計法のルーツ

1914年に公表された「会計法」

中国史上初めてのもの
内容
1985年会計法と同じく、官庁会計に止まっている

19481月に民間企業に適用する「商業会計法」

1946年「所得税法」の交付により、徴税の計算根拠とする目的

企業会計準則―欧米会計監査制度の受入

「会計準則課題組の設置

1988年改革開放政策に基づいて中国財西部は企業会計準則を制定するため

会計準則の位置づけ

会計法に基づいて、企業会計準則を中心に、企業会計準則の解釈指針を補充する考えを元に、国際慣習に適し、かつ中国的特色のある会計準則体系を構築すること

体系

1層:基本会計準則

2層:具体会計準則

3層:解釈指針

中国企業会計準則と具体準則の制定

国際慣習と調和するため

歴史的なものではない

登録会計師法と独立監査準則―欧米監査制度の受入

中国史上初めての公認会計士法

1918年北洋政府農商部が公布した「会計士臨時規定(会計士師暫行章程)」

1927年南京国民政府が公布した「会計師登録規定(会計師注冊章程)」

1930年国民政府が公布した「会計師条例(1930年)」と「会計師法(1945年)」

→日本、アメリカから帰国した留学生たちが西欧の会計士監査制度の影響を受け近代中国会計師制度の雛形を創った

その後の約半世紀

会計士の空白時期

1993年:登録会計師法(1986年登録会計師条例)が公布

1996年:中国本土で本格的に監査基準に基づいて監査を実施することができた

歴史・政治・官僚に依存する企業会計制度

中国会計史における企業会計制度

中央集権的な政治、経済体制において企業会計準則のない時代に、官庁会計を中心に規定されたもの

会計の計算、記録、報告についてきめ細かく規定された会計計算規定

根源

1914年以降の官庁会計制度

1934年以降の民間業種別会計制度

1949年中華人民共和国の誕生

ソ連会計思想の受入

1950年:「中央重工業部所属企業及び経済組織統一会計制度」を制定(財政部)

    ↓のちに

  その他の業種別企業会計制度のモデル

1993年:企業会計準則を公表(財政部)

再び数多くの業種別会計制度を公表

2つの会計処理のスタンダードが併存しながら会計計算制度を支えている

「多重的なスタンダード」を整理するため

中国共産党第15回中央委員会第4次会議において業種別企業会計制度が決定

  ↓のちに

企業会計制度(200012月)が公布

新たな企業会計制度

企業会計準則と重複している所が多い

企業会計準則

中国の現状と実務者の慣習に合致せず、存在感は薄く、企業会計準則の形骸化にもなりかねない

会計処理手続に対して選択肢が多く、具体的な会計処理手続しか示せず

→中国の現状では馴染まない

実態

歴史的な企業会計制度で十分に会計処理ができている

多くの会計実務従事者

長い間政治(行政)に依存

極めて具体的な会計制度を明示している単純明快な企業会計制度が望ましい

進化中の中国型会計監査制度

中国の法律体系

大陸法の範疇に属し制定法制

会計法、企業会計準則、企業財務通則、業種別企業会計制度、企業財務制度が同時併存している現象

 中国の会計監査制度が政治と歴史に左右されがちで、そしてそれらの影響を受けた行政官僚、会計学者、実務従事者などが会計制度の歴史を遡及しながら、それぞれの自分の見解を堅持した結果

 歴史的な会計思想とソ連型会計思想の影響及び現在の国際会計基準をめぐって統一する潮流の三者が政治的・歴史的に融合した結果

これからの中国型会計監査制度

このような多元的な影響を受け相互依存しながら進化していくであろう

1992年に公表された企業会計準則とほぼ同時

企業財務通則(資金と会計報告が中心)も公表

業種別企業財務制度(会計報告規定)も公表

2つの原則(企業会計準則と企業財務通得)と2つの計算規定(企業会計制度と企業財務制度)が重層的に存在する

企業会計制度は歴史から受け継ぐもの

企業財務通則は計画経済システムから受け継ぐもの

企業会計準則は改革開放政策の実施につれて、欧米から輸入されたもの

現代中国会計教育制度のフレームワーク

会計教育改革の歴史

中国の大学における会計教育の歴史(6つの過程)

@旧ソ連の経験を学ぶ時期

会計教育カリキュラムは会計原理、業種別会計、業種別財務管理論、財務分析論の4科目

A1980年代改革開放初期

西側諸国の財務会計、管理会計とコンピュータ会計などの3科目を加えた

B1983年中国国家会計検査院(国家審計署)が設立

監査の専門知識をもつ人材への需要が急速に増えつづけ、監査論入門などを中心とするカリキュラムが形成

C1980年代後半、中国証券市場の成立と国営企業自主権限の増加

財務管理の専門知識を持つ人材への需要が急速に増え続け、カリキュラムは財務管理論、財務予算、資金運用額、原価計算論などを加えた

D1990年代初期、中国市場経済の発展

財務会計領域において重大な改革
カリキュラムは、初級会計、財務会計、原価会計、管理会計、会計電算化、考究会計

E1994年ごろ、会計事務所の登録会計師人材に対する需要が拡大

大学のカリキュラムは、中級財務会計、原価管理会計、財務管理論、監査論、経営コンサルタント、考究会計などの9科目

行政(官)が主導する会計教育システム

現状:中国国内外における経営者の虚偽財務報告及び登録会計師の虚偽監査報告書の蔓延

→中国政府は、学校における会計教育、資格を取得するための会計教育を強化、会計人全体のレベルを向上させるため、会計人の継続的専門教育

中国会計教育のフレームワーク(図表4

中国会計教育の面

政治的依存性と歴史的依存性

2つの特徴

中国会計教育は政治改革に左右され、政治変革に強く依存

政府が主導する官僚依存型会計教育体系

まとめ

中国財務ディスクロージャーと監査制度

政治行政主導型

制度の形成要因(ウェーバーの中国分析を参考):6つの要因

@統治政府による徴税県や支配階級にある思想は現代もそのまま残り、改革解放後の中国で、初めて財務ディスクロージャー及び監査を明記した法律は租税法

A中国の歴史から見れば、中国の政治、経済、社会は、すべて官僚主導

行政と政治(政党)が一体となって中央集権的

Bエリートは国の大学、研究所、行政機関などに集中

民間の人材育成は、この構造に制限

*新たなシステムを導入する場合

必然的に統治者である行政機関が主導権を取る

C人間意識も歴史的・政治的な要件に制限

→国民は政府に依存しがち

自治権などに対応する政治勢力の生成温床はない

D市場経済の発展による民間資本はいまだ不十分

民間主導型の会計監査制度が生成する資金提供元は形成されていない

E一般に中国人は儒教を中心とする多元的な道徳倫理観を用いる

経済のグローバル化につれて国外の思想も中国人の文化的行動パターンに影響を与えた

 

<参考文献>

李文忠「中国財務ディスクロージャーと監査制度論―社会的アプローチ―」『現代監査』No.1420043