新しい企業会計原則の持つべき性格

一、企業会計原則のタイプ(四つのタイプ)

@専ら理論的見地から形成された企業会計の指針

短所

実務に取り入れることは種々の困難な事情がある

会計一般に共通する会計処理に関する原則(基本会計の原則)

特徴

理論の所産

企業会計の理論的説明に役立つ用具

ex

リトルトンのいう会計理論の用具たる原則

A現行の会計実務の中に取り入れられている多くの会計処理の方法や手続の中から、比較的広く一般的に採用されているものを選び出すことによって、実務の統一化を図るために設けられた基準

理論的妥当性の有無に関係なく、商法や税法に追随

←商法や税法が強行法規であるから

短所

理論的一貫性を欠く

長所

実務の統一という目的を達することが可能

一般的に遵守しやすい原則

ex

我が国企業会計原則修正案

B企業会計原則をかなり狭義に解釈し、主として財務会計の指針となるものとして理解するもの

現行の財務会計に関する実務の中から、理論的にみて比較的妥当とみられるもので、かつ実務上からみても比較的公正なものを選ぶことによって、形成されるもの

ex

我が国の現行の企業会計原則

C財務会計と管理会計との両者に共通する基本会計の原則というべきもの

理論と実務との妥協の下に、現行の会計実務を一歩一歩理論の方向に導くことを目指すもの

→実務的実践可能性と理論的普遍妥当性をもつところの実務の一般的基準

性格

(1)財務会計と管理会計とに共通する実務の一般的指針ないし一般的基準となるものであること

(2)理論的にみて企業会計の目的に適合し、普遍妥当性をもつ原則であること

(3)企業をとりまくあらゆる利害関係者の情報要求に適合するように調整された原則であること

→新しい企業会計原則が必ず具備すべき要件

二、実務の一般的指針としての会計原則一般

企業会計原則(従来)

財務会計に関する指針または基準(一般的基準)

管理会計の分野→会計原則は不必要

 

財務会計が作成する会計報告書

企業の利害関係者グループの利害に関係する資料

管理会計

専ら企業内部の経営管理者が自己の意思決定資料を得るために実施するもの

 ↓(今日)

企業の利害関係者の主要関心事項

内部報告資料

企業の利害関係者のもつ情報要求

財務会計と管理会計が同一の会計資料を基礎として実施されることを望んでいる

会計実務の一般的指針としての会計原則

特殊な会計実務の指針となるものであってはならない

     商法上の「配当可能利益」の計算実務

     税法上の「課税所得」の算定実務

→特殊な目的を達するための指針ないし基準

 会計実務の一般的指針としての会計原則となりうるものではない

配当や税金を考慮する以前において、特定の企業体に属する経済資源の在高や、それの変化の状態について、合理的測定を行い、これを会計情報として伝達するための一般的な指針でなければならない

会計実務の一般的指針

会計理論からみた会計目的に照らして、書くあるべき会計実務を想定し、このような会計実務の実現に向かって現行の実務を一歩でも近づけるための指針

×単に広く一般に実務の中に取り入れられているという理由だけで、会計原則となりうるものではない

○企業会計理論から見て、会計の目的や機能に照らして公正妥当性をもつもの

会計実務の一般的指針としての企業会計原則

財務会計および管理会計の持つ共通の目的や機能を正しく反映することのできる会計処理の原則

企業会計の目的や機能

×単に企業が所有する財産の有高や損益の状態を明らかにするだけのもの

○特定の企業を中心として生起する経済事象を対象として、これを数量的にはあく測定し、会計特有の記号ないし言葉で写し出し、これを企業の利害関係者に伝達することによって、彼らの意思決定のための資料として役立てるという機能

新しい会計原則

何よりもまず企業会計が伝達しようとする経済事実を、あるがままに把握し報告することを可能にするものでなければならない

→企業の利害関係者は会計報告書書類を観察し、その背後にある経済事実を正確に知ることができることになる

*慣習として行われてきた会計実務

「保守主義」

理由

会計の一般目的ではなくて、健全財政という特殊目的を達するための基準となるにすぎない

三、実務の一般的指針としての要請原則

今日の企業会計の目的

多くの関係者の集団に対して、必要とする経済情報を提供し、これによって彼らの意思決定を正しい方向に導き、有限の経済資源の有効利用を図ること

当初

企業者のための財産計算の目的をもつ私的用具

企業会計原則

会計の基本目的に応じて形成されるもの

→制定にあたって最も重要なこと

目的をまず明確にすること

→目的から会計理論を演繹的に形成

会計理論を規制する会計原則が、企業会計の本来の原則でなければならない

新しい企業会計原則

企業会計の目的から生まれる会計公準(目的公準)を基礎として、それの上に演繹される性格をもつ

在来の企業会計原則

主として現存する会計慣習や現行の会計実務の中から帰納されることによって形成されたもの

企業会計の基本目的

経済情報の提供

・経済事実に関する真実な情報を把握

・情報を企業の利害関係者の要求に適合するように整理し表示

要求を充たすために形成された一種の要請原則

真実性の原則、有用性の原則、明瞭性の原則など

要請原則の基礎

「情報要求適合性の公準」その他の会計諸公準の存在

「情報要求適合性の公準」(会計目的適合性の公準)

企業を中心として生起する経済事実に関して、これを会計特有の記号や数字を用いてはあくし測定し表示し、これを企業をとりまく各種の利害間系者に伝達するという企業会計の機能を実現することによって、企業会計の基本目的を達するために、企業会計は存在するものとみる

企業会計の公準

「情報要求適合性の公準」、「企業体の公準」、「継続企業の公準」「貨幣測定の公準」、「貸借分類の公準」など

公準の上にそれぞれ各種の原則が形成される

会計原則

会計所利の方法を一般的に制約する原則として真実性の原則、有用性の原則、公正性の原則、継続性の原則、比較製の原則、明瞭性の原則など

主として「情報要求適合性の公準」を基礎

会計処理一般に対する包括的な指導および制約を要求する原則

要請原則

事実の解明を合理的に行うために、会計処理一般に対し課せられる要請ないし制約を示すもの

具体的直接的に事実の解明に関する会計諸利を指導するものではない

元来会計原則

要請原則

利害関係者の一般的共通的要求から逸脱しないように、予め会計所利に対して一般的制約を加えることを要求する原則

解明原則

事実の具体的解明行為を指導する原則

企業会計原則一般原則

要請原則

BUT

正規の簿記の原則、剰余金区分の原則←解明原則

解明原則

経済的事実の解明にあたって、遵守すべき会計処理上の諸基準の中から、一般的に普遍妥当性をもつものを選定することによってえられたもの

一般性をもたないもの、普遍妥当性をもたないもの

→会計基準として認められる

 会計原則としては認められない

ex)保守主義

新しい企業会計原則に加えられるべきもの

公正性の原則

企業をとりまく利害関係者諸集団相互間における利害の調整を考慮にいれることを要求する原則

特定の利害関係者手段にとっては利益となるが、他の利害関係者集団にとっては不利益となるような会計所利を回避し、すべての利害関係者にそれぞれに調整された利害をもたらす会計所利を要求する原則

有用性の原則

企業会計の提供する会計情報が、各利害関係者にとって有用なものであることを要求する原則

有用性

○公的有用性
×私的有用性

四、実務の一般的指針としての解明原則

解明原則

事実をあるがままに把握し伝達するための具体的指導を行う指針としての原則

企業の経済状態に関する真実を、会計特有の記号や数字で写し出すことが可能

会計処理を指導する原則

発生主義の原則

元来は費用または収益の認識計上について、財や役務の消費または生産の事実が生じた時期にこれを費用・収益として、計上することを要求する原則

会計的測定

原価または時価のいずれか一方を原則として採用するということは適当ではない

  ↑

原価時価いずれか一方だけでは、企業をとりまく多くの利害関係者の情報要求を十分に満足させることができない

 

企業の経済状態に関する現状

→原価よりも時価の方が、より一層重視される

利害関係者の一般的情報要求

時価だけでも不十分

⇒原価も時価もともに情報として伝達されることが要求される

ASOBATAAA1966

原価と時価との両者を併記している

原価時価の両者を併用し得る測定の一般的基準

⇒「測定対価の原則」の要求する測定基準

測定対価の基準

取引の両当事者において、相互に相手方のもつ財の価値を評価し合って合意に達し成立した価格

測定された対価

客観性のある価額

分類の基準

発生形態別分類の基準、機能別分類の基準、操業度関連別分類の基準、製品関連別分類の基準など

いずれもその情報要求に適合するものとして有用

同質的資料の原則が最も普遍妥当性をもつ

五、新しい企業会計原則のもつべき性格

(1)財務会計と管理会計とに共通する普遍妥当性をもつ会計原則であること

(2)企業のすべての利害関係者の情報要求に適合する会計原則であること

(3)企業会計の基本目的や基礎的前提および基礎的手段から生まれた会計公準の上に設定された原則であり、理論的一貫性を持って形成された原則であること

(4)会計実務の特殊な指針となるものではなくて、会計実務の一般的指針となる原則であること

(5)その性質によって要請原則と解明原則とに分かれるが、両者が相互に関連性をもって会計実務を指導し、現行実務に対して改善を図るものであること

 

<参考文献>

坂本安一「新しい企業会計原則の持つべき性格」『会計』第100巻第1号、森山書店、19717