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財務諸表論 特論

連結財務諸表

T連結財務諸表の概要

定義

 連結財務諸表とは、1つの企業集団に属する企業の個別財務諸表を総合して作成される財務諸表をいう。

目的

 連結財務諸表は、支配従属関係にある2以上の会社や事業体からなる企業集団を単一の組織体とみなして、親会社がその企業集団の財務状態と経営成績を総合的に報告する目的で作成するものである。

連結財務諸表の公表制度

 連結財務諸表は個別財務諸表からは得られない企業集団に関する情報を含んでおり、したがって、投資意志決定にとって不可欠な情報である。そこで証券取引法は、有価証券報告書を作成し開示する親会社に対して、決算期ごとに連結財務諸表を作成し、有価証券報告書の中で公開することを義務づけている。

種類

 連結財務諸表は、以下の4種類からなる。

@                    連結貸借対照表

A                    連結損益計算書

B                    連結剰余金計算書

C                    連結キャッシュ・フロー計算書

D                    連結附属明細表

U連結基礎概念

連結基礎概念の概要

 連結財務諸表における理論について、その理論構成の特徴や連結財務諸表の性格等を的確に把握するためには、その理論の底流をなしている主体意識を明瞭にすることが重要となる。このような主体意識を連結基礎概念(連結主体観、連結会計主体論)という。

 部分所有の子会社を前提とする場合(子会社に少数株主が存在する場合)、どのような連結基礎概念を選択するかによって、作成される連結財務諸表に重要な影響を与えることになる。

連結基礎概念の内容

 連結基礎概念の代表的なものは、(1)資本主概念、(2)親会社概念、(3)親会社拡張概念および(4)実体概念の4つである。

(1)     資本主概念

 資本主概念とは、親会社の資本主の観点から子会社の財務諸表を連結する考え方である。親会社の資本主の立場を強調すると、子会社の識別可能な資産と負債の公正価値に対する親会社持分額だけを連結(比例連結)すればよいことになる。
 したがって、この概念からは比例連結が適用され、少数株主持分は連結財務諸表に全く反映されないことになる。この結果、子会社の株主取得日以降の持分の変化を少数株主持分に反映させる必要もない。

(2)     親会社概念

 親会社概念とは、親会社の資本主の観点から子会社の財務諸表を連結する考え方であり、この点では、資本主概念と同様であるが、資本主概念における比例連結に代えて、全部連結を適用するものである。
 連結財務諸表の作成にあたっては、@子会社の資産・負債を公正価値で評価し、Aこの公正価値と簿価との差額に対する親会社の比例的持分を加算して子会社の資産・負債を評価し、その結果、B少数株主持分は子会社純資産の簿価に対する少数株主の比例的持分として計算され、また、C親会社の資本主グループの立場が強調される結果、少数株主持分は外部者持分とみなされ、連結財務諸表上負債として表示される。さらに、D連結のれんが発生していても、少数株主持分には配分されない。

(3)     親会社拡張概念

 親会社拡張概念とは、基本的には親会社概念に属する考え方であるが、連結の際の、子会社の資産・負債及び少数株主持分の測定方法が異なる。
 連結財務諸表の作成にあたっては、@子会社の資産・負債を公正価値で評価する点では親会社概念と同じであるが、Aこの公正価値と簿かとの差額を親会社と子会社の少数株主持分に比例的に配分して、子会社の資産・負債を評価し、その結果、B少数株主持分は子会社純資産の公正価値に対する少数株主の比例的持分として計算され、C少数株主持分は、連結財務諸表上負債と資本の中間に表示される点において、親会社概念と異なる。なお、D連結のれんが発生していても、少数株主持分には配分されない点は親会社概念と同じである。

(4)     実体概念

 実体概念とは、連結財務諸表を経済実体の観点から作成しようとする考え方であり、親会社持分と少数株主持分とを同じ方法で取り扱うものである。
 連結財務諸表の作成にあてっては、@子会社の資産・負債を公正価値で評価する点、Aこの公正価値と簿かとの差額を親会社と子会社の少数株主持分に比例的に配分して子会社の資産・負債を評価する点では親会社拡張概念と同じであるが、B少数株主持分は子会社純資産の公正価値に対する少数株主の比例的持分と発生した連結のれんのうち少数株主持分に比例的に配分したものの合計として算定され、さらに、C少数株主持分は、連結財務諸表上資本に表示される点において、親会社拡張概念と異なる。なお、D連結のれんが発生する場合、親会社持分と少数株主持分とに比例的に配分される点においても、親会社拡張概念と異なる。

V連結財務諸表の一般原則

 連結財務諸表原則では、真実性の原則、個別財務諸表基準性の原則、明瞭性の原則及び継続性の原則の4つの一般原則を明示している。

 企業会計原則における一般原則と比較してみると、個別財務諸表基準性の原則を除いて基本的にその趣旨は同じである。

1 真実性の原則

(一般原則、一)

 連結財務諸表は、企業集団の財政状態及び経営成績に関して真実な報告を提供するものでなければならない。

 真実性の原則でいうところの真実とは、相対的真実を意味する。

 真実性の原則でいうところの真実とは、以下の理由により、絶対的真実ではなく、相対的真実を意味することになる。

 第1に、連結財務諸表の作成の基礎としての個別財務諸表の作成にあたっては、多くの事項について主観的な見積りが含まれており、また、1つの取引につき、複数の会計処理方法が認められている場合があり、採用する方法により財務諸表の数値は異なってくること。

 第2に、連結財務諸表は、個別財務諸表とは異なり、その作成の基礎となる会計帳簿が存在しないこと。

 第3に、子会社の資産及び負債の評価にあたり、時価アプローチが導入されているが、その時価の算定にあたっては、主観が入らざるをえないこと。

 なお、真実性の原則には、重要性の原則が適用される。

2 個別財務諸表基準性の原則

(一般原則、二)

 連結財務諸表は、企業集団に属する親会社及び子会社が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成した個別財務諸表を基礎として作成しなければならない。

 個別財務諸表基準性の原則は、第1に連結財務諸表は、個別財務諸表を基礎として作成しなければならないこと(基準性)、そして第2に、その個別財務諸表が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して適性に作成されているべきこと(準拠性)、の2つを要求する原則である。

 したがって、個別財務諸表が当該企業の財政状態や経営成績を適性に表示していない場合には、それが連結財務諸表に重要な影響を与えないと認められる場合を除き、連結財務諸表の作成に際して、当該個別財務諸表を適正に修正した上で、連結決算を行わなければならない。

3 明瞭性の原則

(一般原則、三)

 連結財務諸表は、企業集団の状況に関する判断を誤らせないよう、利害関係者に対し必要な財務情報を明瞭に表示するものでなければならない。

 明瞭性の原則は、企業集団の利害関係者にその判断を誤らせないように、必要かつ十分な連結情報の開示を要求しているものである。

 明瞭性の原則の適用例として、連結財務諸表の表示方法、注記事項等がある。

 なお、明瞭性の原則には、重要性の原則が適用される。

4 継続性の原則

(一般原則、四)

 連結財務諸表原則作成のために採用した基準及び手続は、毎期継続し、みだりにこれを変更してはならない。

 継続性の原則は、企業_の財務諸表の期間比較性の確保及び経営者の利益操作の排除のため、必要とされる。

 なお、重要な資産の評価基準等について変更があった場合には、その旨、その理由及びその影響を連結財務諸表に注記しなければならない。

W一般基準

 連結財務諸表作成の一般基準は、連結に含める子会社の範囲を決定するための基本的な考え方(連結範囲の決定基準)、連結決算日、親会社又は子会社の会計処理の原則及び手続について述べたものである。

1 連結の範囲

 連結財務諸表を作成するためには、その対象とする企業集団の範囲を決定する必要がある。その基準としては、持株基準と支配力基準とがある。ある企業が連結の範囲に含まれるか否かは、その企業と親会社の間に支配従属関係が存在するか否かによって決定される。

 なお、連結財務諸表原則においては、持株基準も支配力基準の一適用形態とした上で、支配力基準を採用することとしている。

(1)     持株基準

 持株基準とは、法形式を重視する考え方であり、他会社の議決権を有する株式の過半数を所有していれば、株主総会での議決権行使を通じてその会社を支配下に置くことができるから支配従属関係が存在するとみる基準である。
 持株基準は、支配従属関係を株式の数で判断するため、客観性の点で優れている。

(2)     支配力基準

 支配力基準とは、実質を重視する考え方であり、他会社の議決権のある株式に過半数を所有している場合はもとより、過半数を所有していなくても、資金提供、役員派遣、取引関係等を通じて、他の会社を実質的に支配している場合にも、当該会社を連結の対象とする考え方である。
 支配力基準は、持株基準による形式的な判断だけでは企業集団の実態を把握できないこと、さらに、持株基準のもとでは意図的に持ち株比率を減らして、いわゆる連結外しを行うことが可能であることから、その欠点を補うために用いられる。
 なお、国際会計基準及び主要国においても支配力基準によっている。

2 連結決算日

 連結財務諸表を作成する対象となる会計期間は1年とされ、その期間の末日を連結決算日という。連結決算日は、親会社の会計期間を基礎として、年1回一定の日が選ばれる。

 子会社の決算日が連結決算日と異なる場合には、子会社は、連結決算日において正規の決算に準ずる合理的な手続による決算を行い、個別財務諸表を作成しなければならない。

 ただし、決算日の差異が3ヶ月を越えない場合には、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行うことが認められている。この場合、決算日が異なることから生ずる連結会社間の取引に係る会計記録の重要な不一致については、必要な整理を行ったうえで連結しなければならない。

3 親会社及び子会社の会計処理の原則及び手続

 連結財務諸表は、企業集団の経済的実体を重視して作成するものであるから、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計処理の原則及び手続は、原則として統一しなければならない。

X連結貸借対照表

 連結貸借対照表は、親会社と子会社の個別貸借対照表を基礎とし、@子会社の資産・負債の時価評価等の必要な調整を加えたうえで、連結会社の資産・負債及び資本の金額を科目ごとに合算するとともに、A連結会社相互間の投資と資本の相殺消去(資本連結)、B債権と債務の相殺消去と、C税効果の適用、D非連結子会社及び関連会社に対する持分法の適用という5つの会計処理を行なって作成する。

1 子会社の資産及び負債の評価

時価評価の必要性

 親会社と子会社を合わせた企業集団全体の観点からは、子会社に対する親会社の投資は集団内部の取引に過ぎない。したがって、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本(純資産)は、連結決算にあたって相殺消去されなければならない。
(借)子会社の資本 ××
      (貸)親会社がもつ子会社株式 ××
 この消去仕訳の貸方は、親会社が子会社株式の取得に要した額であるから、当然に子会社の公正な評価額(時価)を反映する。これに対し、借方は、取得原価に基づく子会社の純資産額である。したがって、このまま消去仕訳を行なうと、時価と原価を相殺することになり適切ではない。このため、子会社の個別貸借対照表における資産・負債の計上額とその時価との間に重要な差異がある場合には、投資と資本の相殺消去に先立って、子会社の資産・負債を時価で評価し直さなければならない。
 時価と原価の差額は評価差額とよばれ、子会社の資本の1項目となり、子会社の資本金や剰余金とともに相殺消去される。
 なお、評価差額に重要性が乏しい子会社の資産・負債は個別貸借対照表上の金額によることとし時価評価を行わないことができる。

部分時価評価法と全面時価評価法

 少数株主が存在する子会社の資産・負債を時価評価する方法には、部分時価評価法と全面時価評価法とがある。
 部分時価評価法とは、子会社の資産及び負債のうち、親会社の持分に相当する部分については、株式の取得日ごとにその日における公正な評価額(時価)により評価し、少数株主持分に相当する部分については、子会社の個別貸借対照表上の金額のままとする方法である。
 この方法は、時価を反映した親会社の投資額と相殺消去されるのは、子会社の純資産のうち親会社に帰属する部分であるから、その部分だけを時価評価すべきという考え方によるものであり、親会社説に立脚した会計処理方法であるといえる。
 全面時価評価法とは、子会社の資産及び負債のすべてを、支配獲得日の時価により評価する方法である。
 この方法は、少数株主持分に帰属する部分も含めて、子会社の純資産の全体が時価を反映した金額に評価し直されるものであり、経済的単一体説と首尾一貫した会計処理方法であるといえる。
 なお、連結財務諸表原則では、部分時価評価法と全面時価評価法の間での任意選択を認めたうえで、会社が採用した方法を注記することとしている。

2 資本連結

 資本連結とは、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本(純資産)を、相殺消去することをいう。

連結調整勘定

 連結調整勘定とは、連結決算に当たり、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本(純資産)を、相殺消去する際に生じる消去差額をいう。
 連結調整勘定は、親会社が子会社株式を取得するにあたり、子会社の超過収益力を考慮に入れて、子会社の純資産の時価評価を上回る価額で株式を取得したために生じたものと考え、それを貸借対照表上資産の部に計上する。
 しかし超過収益力は競争を通じて徐々に失われることから、連結調整感情については、その計上後、定額法その他合理的な方法により償却しなければならない。
 なお、子会社株式の取得価額いかんでは、連結調整勘定が貸方に生じる場合もあるが、その場合には貸借対照表上負債の部に計上し、同様の方法で償却する。
 連結財務諸表原則においては、連結調整勘定は、無形固定資産又は固定負債の区分に表示するものとし、それが借方及び貸方の双方に生ずる場合には、これを相殺して記載することができるとしている。
 また、原則としてその計上後20年以内に、定額法その他合理的な方法により償却しなければならないとし、資産の部に計上された連結調整勘定の当期償却額は、販売費及び一般管理費の区分に表示し、負債の部に計上された連結調整勘定の当期償却額は、営業外収益の区分に表示するものとしている。

少数株主持分

 少数株主持分とは、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分をいう。これに対し、子会社の資本のうち親会社に帰属する部分を親会社持分という。
 連結決算にあたり、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本(純資産)を、相殺消去するが、他方、少数株主に帰属する部分は少数株主持分として処理する。
 少数株主持分は、その内容から、子会社株式の取得日におけるものと、取得日後に生じた子会社の剰余金に対するものからなる。
 少数株主持分の評価は、子会社の資産・負債の評価における、部分時価評価法と全面時価評価法とで異なるものとなる。
 部分時価評価法によれば、少数株主持分に相当する部分については、子会社の個別貸借対照表上の金額のままとされるのに対し、全面時価評価法によれば、少数株主持分に相当する部分についても、支配獲得日の時価により評価される。
 少数株主持分の性格に関しては、連結主体論上、親会社説に立つか経済的単一体説に立つかで異なるものとみることができる。
 親会社説に立てば、企業集団の株主は親会社の株主だけであり、連結貸借対照表の資本の部は、親会社分だけと考えられ、少数株主持分は資本の部以外、すなわち負債の部に表示すべきことになる。
 これに対して、経済的単一体説に立てば、親会社の出資金も少数株主の出資金も、企業集団にとって同等に機能することから、それらの持分をともに資本の部に表示すべきこととなる。
 なお、連結財務諸表原則においては、少数株主持分は、返済義務のある負債ではなく、連結固有の項目であることを考慮して、負債の部と資本の部の中間に独立の項目として表示することとしている。

子会社株式の段階的取得

 子会社株式の取得が2回以上にわたって行われている場合の親会社の投資とこれに対応する子会社の資本の相殺消去には、段階法と一括法の2つがある。
 段階法とは、株式取得日ごとに、その日における子会社の資本のうちの親会社の持分を算定して、これとその株式の取得原価とを相殺消去するとともに、株式取得日後に生じた子会社の剰余金は、親会社に帰属する部分を連結剰余金とし、少数株主に帰属する部分を少数株主持分として計上する方法をいう。
 一括法とは、親会社による子会社株式を段階的に取得した事実とは無関係に、支配獲得日を基準として、親会社の投資と子会社の資本を一括して相殺消去する方法である。
 段階法と一括法のいずれを適用するかは、子会社の資産・負債の時価評価法の選択に依存する。
 部分時価評価法では、子会社の株式の取得日ごとにその日における時価により評価を行うことから、投資と資本の相殺消去に際しては、段階法が適用される。全面時価評価法では、支配獲得日に一括して時価により評価を行うことから、投資と資本の相殺消去に際しては、一括方が適用される。
 ただし、部分時価評価法を採用している場合であっても、連結計算の結果が著しく相違しない場合には、一括法を適用することができる。

3 債権債務の相殺

 連結会社相互間の債権債務は、企業集団内部での取引の結果にすぎないため、連結決算上は相殺消去する。

 なお、相殺消去の対象となる債権又は債務には、確定金銭債権と確定金銭債務以外に、連結会社相互間の取引から生じた経過勘定項目も含まれる。

4 税効果会計

 連結財務諸表においては、税効果会計の適用が強制されている。

 個別財務諸表上、税効果会計が全面適用されている場合、基本的には、連結財務諸表作成過程で発生する一時差異に係る法人税等の期間配分を行うことになる。

5 持分法

持分法の概要

 連結財務諸表を作成することにより、連結対象とされた子会社の業績は、連結財務諸表中に反映されるが、非連結子会社の業績は反映されない。また、企業集団の中には、親会社の支配が成立していなくても、親会社から強い影響を受け、企業集団構成上、重要な意味を持つ会社もある。したがって、連結財務諸表が企業集団全体の財務情報を適切に表示するためには、これらの企業の業績もまた、連結財務諸表に反映される必要がある。そのための会計処理方法として、持分法がある。

持分法の適用会社

 連結財務諸表原則により持分法の適用が義務づけられているのは、非連結子会社と関連会社に対する投資勘定である。
 非連結子会社とは、親会社の支配が成立しているが、種々の理由で連結の対象とされなかった子会社をいう。
 関連会社とは、親会社及び子会社が、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、財務及び営業の方針決定に対して重要な影響を与える(影響力基準)ことができる場合におけるような他の会社をいう。

持分法の手続

 持分法とは、投資会社が被投資会社の純資産及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資額を連結決算日ごとに修正する方法をいう。
 持分法の適用は、次の手順による。
@                     投資会社の投資日における投資とこれに対応する被投資会社の資本との間に差額がある場合には、当該差額は投資に含め、連結調整勘定と同様に処理する。
A                     投資会社は、とうしの日以降における被投資会社の利益又は損失のうち投資会社の持分又は負担に見合う額を算定して、投資の額を増額又は減額し、当該増減額を当期純利益の計算に含める。連結調整勘定に相当する部分の償却額は、当該増減額に含める。
B                     投資の増減額の算定に当たっては、連結会社と持分法適用会社との間の取引に係る未実現損益を消去するための修正を行う。
C                     被投資会社から配当金を受取った場合には、当該配当金に相当する額を投資の額から減額する。
 なお、持分法の適用に際しては、被投資会社の財務諸表について、資産及び負債の評価、税効果会計の適用等、原則として、連結子会社の場合と同様の処理を行うものとする。

6 連結貸借対照表の表示方法

 連結貸借対照表における表示方法は、個別財務諸表における表示方法と基本的には同じであるが、個別財務諸表に比べ、重要性の原則に基づく要約表示が認められている。

 連結貸借対照表に送る表示方法に関して特有の項目は、以下の点である。

@                    少数株主持分は、負債の部の次に区分して記載する。したがって、連結貸借対照表は、資産の部、負債の部、少数株主持分及び資本の部の4区分からなる。

A                    連結調整勘定は、無形固定資産又は固定資産の区分に記載する。なお、連結調整勘定が借方及び貸方の双方に生ずる場合には、これを相殺して記載することができる。

B                    非連結子会社及び関連会社に対する債権債務又は投資勘定は、他の項目と区別して記載するか、注記する。

C                    資本の部は、資本金、資本準備金及び連結剰余金(資本準備金以外の剰余金)に区分して記載する。したがって、個別財務諸表のように利益準備金とその他剰余金(任意積立金及び当期未処分利益)の区別は必要ない。

 また、自己株式及び子会社が所有する親会社の株式は、資本に対する控除項目として資本の部の末尾に表示する。

Y連結損益計算書

 損益計算書は、親会社と子会社の個別損益計算書を基礎とし、@連結会社相互間の取引高の相殺消去及び、A未実現損益の消去という2つの会計処理を行って作成する。

1 連結会社相互間の取引高の相殺消去

 連結会社相互間における商品の売買その他の取引は、企業集団内部における取引に過ぎないため、それに関連する項目は連結決算上で相殺消去しなければならない。

2 未実現損益の消去

 連結会社の一方が利益を加算する等により、取得原価と異なる価格で棚卸資産・固てい資産その他の資産を他の連結会社へ販売し、それが期末に資産として残存している場合には、当該資産に未実現損益が含まれていることから、連結決算上でその全額を消去しなければならない。

 未実現損益の消去については、親会社と子会社のいずれが売手側であるかにより、その会計処理方法が異なる。親会社が売手側である場合、すなわち親会社が先に取得した資産を子会社に転売する場合をダウン・ストリームといい、反対に子会社が売手側である場合、すなわち子会社が先に取得した資産を親会社に転売する場合をアップ・ストリームという。

(1)     ダウン・ストリームの場合

 ダウン・ストリームの場合、親会社において未実現損益を計上しているため、親会社の観点で行う連結決算にあたっては、その全額を消去する。

(2)     アップ・ストリームの場合

 アップ・ストリームの場合、子会社において未実現損益を計上しているが、子会社に少数株主が存在する場合には、(a)子会社の未実現損益の全額を消去すべきか、それとも(b)未実現損益のうち親会社の持株分相当額のみを消去すべきか、また子会社の未実現損益の全額を消去する場合に、親会社がその全額を負担すべきか、それとも親会社と少数株主との間で按分負担するかにより、@全額消去・親会社負担方式A全額消去・持株比率負担方式、B親会社分相当額消去方式の、3通りの未実現損益の消去方法が存在する。
 これらのうち、B親会社持分相当額消去方式は、親会社説に合致した方法であるが、親子会社間の取引高が全額消去されているにもかかわらず、それに対応する未実現損益の一部が消去されないという点で問題があり、@全額消去・親会社負担方式は、少数株主の存在を無視する点で不合理なため、結果としてA全額消去・持株比率負担方式が最も妥当であるといえる。この方法は、経済的単一説と首尾一貫した方法である。
 なお、連結財務諸表原則においても、全額消去・持株比率負担方式を採用することとしている。

3 連結損益計算書の表示方法

 連結損益計算書における表示方法は、個別財務諸表における表示方法と基本的には同じであるが、個別財務諸表に比べ、重要性の原則に基づく要約表示が認められている。

 連結損益計算書における表示方法に関し特有の項目は以下の点である。

@                    少数株主損益は、税金等調整前当期純利益の後に、法人税等の次に記載する。

A                    資産の部に計上された連結調整勘定の当期償却額は、販売費及び一般管理費の区分に表示し、負債の部に計上された連結調整勘定の当期償却額は、営業外収益の区分に表示する

B                    持分法による投資損益は、営業外収益又は営業外費用の区分に一括して表示する。

C                    損益計算書は当期純利益の表示をもって完結するが、損益計算書と剰余金計算書を結合して、連結損益及び剰余金計算書を作成してもよい。

Z連結剰余金計算書

 連結剰余金計算書は、連結貸借対照表における連結剰余金について、その増減を示すものであり、その増減は、親会社及び子会社の損益計算書及び利益処分に係る金額を基礎として、連結会社相互間の配当に係る取引を消去して計算する。

1 連結剰余金計算書の必要性

 連結剰余金計算書は、個別財務諸表には存在しない連結会計制度に固有の計算書である。個別会計においては、処分可能利益の算定が重視されるのに対して、連結会計においては、企業集団の情報開示が重視される。したがって、個別会計においては、損益計算書や貸借対照表とともに、利益処分にかかわる利益処分計算書が必要となるが、連結会計においては、利益処分計算書は必要とされない。しかし、個別会計で行われる利益処分計算の結果は、連結貸借対照表上の連結剰余金の変化となって現れることから、連結剰余金の増減を示す剰余金計算書が連結会計においては必要とされることになる。

2 連結剰余金計算書の作成方法

 連結剰余金計算書の作成に先立って必要となる、個別剰余金計算書の作成方法には、確定方式と繰上方式とがある。両者の違いは、剰余金の減少高として、どの時点の利益処分を剰余金計算書に記載するかにある。

 確定方式とは、連結会計期間において確定した利益処分を基礎として連結決算を行う方法であり、繰上方式とは、連結会計期間の利益に係る処分を基礎として連結決算を行う方法である。

 連結財務諸表原則においては、確定方式を原則的方法としている。

[連結キャッシュ・フロー計算書

 従来、有価証券報告書の添付書類として資金収支表の作成開示が義務づけられていたが、これに代えて、連結キャッシュ・フェロー計算書の作成開示が義務づけられることとなった。

\中間連結財務諸表

 半期報告書で開示される財務諸表を中間財務諸表というが、連結情報のタイムリー・ディスクロージャーの観点から、中間連結財務諸表の作成開示が義務づけられることとなった。

]セグメント情報

 連結情報は、企業集団全体の財政状態及び経営成績を把握するのには有用であるが、業績の良い事業の財政状態及び経営成績も、業績の悪い事業の財政状態及び経営成績も、全て相殺又は合算されているために、企業集団を構成する個々の事業の種類別活動及び国別・地域別の事業活動について詳細に分析することができない。このような連結情報を補完するのがセグメント情報である。

 セグメント情報は、企業集団を、収益性、成長性、リスクの程度を異にする事業活動を、事業の種類別、親会社及び子会社の所在地別等に区分したセグメントに分割し、セグメント別に売上高等の財務情報を提供することから、情報利用者は、連結情報のみからは得られない有用な情報を得ることができるのである。

税効果会計

税効果会計の概要

税効果会計の定義

 税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税その他利益に関する金額を課税標準とする税金(以下、法人税等という。法人税等には、法人税のほか、都道府県民税、市町村民税及び利益に関する金額を課税標準とする事業税が含まれる。)の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続きである。

税効果会計の必要性

 法人税等の課税所得の計算に当たっては企業会計上の利益の額が基礎となるが、企業会計と課税所得計算とはその目的を異とするため、収益又は費用(益金又は損金)の認識時点や、資産又は負債の額に相違が見られるにが一般的である。

 このため、税効果会計を適用しない場合には、課税所得を基礎とした法人税等の額が費用として計上され、法人税等を控除する前の企業会計上の利益と課税所得とに差異があるときは、法人税等の額が法人税等を控除する前の当期純利益と期間的に対応せず、また、将来の法人税等の支払額に対する影響(税効果)が表示されないことになる。

 このような観点から、財務諸表の作成上、税効果会計を全面的に適用することが必要とされる。

税効果会計の対象

 税法上の課税所得は、確定した会計上の利益に基づき、それに租税政策等の目的による調整を加味して決定される。したがって、会計上の税引前当期純利益と税法上の課税所得とは一致しないのが通常となる。この差異を生じさせる原因を形態的にみると、永久差異と一時差異とに区別される。

永久差異

 永久差異とは、貸借対照表及び連結貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額のうち、将来の期間において課税所得に算入されることのない差額をいい、税効果会計の適用対象とならないものである。

一時差異

 一時差異とは、貸借対照表及び連結貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額のうち、将来の期間において課税所得に算入される差額をいい、税効果会計の適用対象となるものである。

 一時差異は、例えば、次のような場合に生じる。

(1)     財務諸表上の一時差異

@                    収益又は費用の帰属年度が相違する場合

A                    資産の評価替えにより生じた評価差額が直接資本の部に計上され、かつ、課税所得の計算に含まれていない場合

(2)     連結財務諸表固有の一時差異

@                    資本連結に際し、子会社の資産及び負債の時価評価により評価差額が生じた場合

A                    連結会社相互間の取引から生ずる未実現損益を消去した場合

B                    連結会社相互間の債権と債務の相殺消去により貸倒引当金を減額修正した場合

 一時差異には、将来減算一時差異と将来加算一時差異とがある。

 将来減算一時差異とは、当該一時差異が解消するときにその期の課税所得を減額する効果を持つものであり、法人税等の支払いが前払いとなることから、それを示す繰延税金資産という勘定で処理される。

 将来加算一時差異とは、当該一時差異が解消するときにその期の課税所得を増額する効果を持つものであり、法人税等の支払いが未払いとなることから、それを示す繰延税金負債という勘定で処理される。

 将来の課税所得と相殺可能な繰延欠損金等については、一時差異と同様に取り扱うものとする。

税効果会計の方法

 税効果会計の方法、すなわち繰延税金の計算方法には、繰延法と資産負債法とがある。なお、税効果会計に係る会計基準においては、資産負債法によることとしている。

繰延法

 繰延法とは、企業会計上の収益・費用の金額と税無上の益金・損金の金額に相違がある場合において、その差異項目である期間差異について、貸借対照表上、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法である。

 繰延法では、課税所得に基づく納税義務額のうち、当期の企業会計上の利益に対応しない部分を繰り延べることが焦点となることから、税効果会計に適用される税率は、一時差異の発生年度のものが適用され、その後に税率の変更があっても繰延税金の修正を行わない。

資産負債法

 資産負債法とは、企業会計上の資産・負債の金額と税務上の資産・負債の金額に相違がある場合において、その差異項目のうち一時差異について、貸借対照表上、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法である。

 資産負債法では、将来期間における前払税金の回収額又は追加支払額の計上を重視することから、税効果会計に適用される税率は、一時差異の解消年度のものが適用され、その後に税率の変更があれば繰延税金の修正を行う。

税効果会計の手続

繰延税金資産・繰延税金負債の計上

 一時差異等に係る税金の額は、将来の会計期間において回収又は支払が見込まれない税金の額を除き、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する。この場合、繰延税金資産については、将来の回収の見込みについて毎期見直しを行わなければならない。

 計上する繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算する。

法人税等調整額の計上

 繰延税金資産と繰延税金負債はそれぞれ期首と期末において認識され、期首における繰延税金資産と繰延税金負債を相殺した純額と、期末における繰延税金資産と繰延税金負債を相殺した純額との増減額が、当期に納付すべき法人税等の調整額として計上される。

資産の評価替えにより生じた評価差額が直接資本の部に計上される場合

 資産の評価替えにより生じた評価差額が直接資本の部に計上される場合には、当該評価差額に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を当該評価差額から控除した額が資本の部に計上される。この場合、評価差益が生じる場合には繰延税金負債が、評価差損が生じる場合には繰延税金資産が計上される。

資本連結における時価評価により生じた評価差額がある場合

 資本連結に際したは、子会社の資産及び負債を部分時価評価法又は全面時価評価法により評価することとなるが、子会社の資産及び負債の時価評価により生じた評価差額がある場合には、当該評価差額に係る時価評価時点の繰延税金資産又は繰延税金負債を当該評価額から控除した額をもって、親会社の投資額と相殺の対象となる子会社の資本とする。

繰延税金資産・繰延税金負債の金額を修正した場合

 法人税等について税率の変更があったこと等により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を修正した場合には、修正額は、法人税等調整額に加減して処理する。ただし、資本の部に計上される評価差額に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を修正したいときは、損益計算書を通さず、修正差額を評価差額に加減して処理する。

 なお、資本連結に際して認識される子会社の資産・負債の評価差額に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を修正したいときは、修正差額を法人税等調整額に加減して処理する。

財務諸表における表示

繰延税金資産・繰延税金負債の流動・固定の分類

 繰延税金資産及び繰延税金負債は、これらに関連した資産・負債の分類に基づき、繰延税金資産については、流動資産又は投資その他の資産として、繰延税金負債については、流動負債又は固定負債として表示する。

 ただし、特定の資産又は負債に関連しない繰延税金資産及び繰延税金負債については、貸借対照表日後1年以内に取り崩されると認められるものについては、流動資産又は流動負債として、それ以外のものについては投資その他の資産又は固定負債として表示する。

繰延税金資産・繰延税金負債の表示

 繰延税金資産及び繰延税金負債は、それぞれの名称を付した科目をもって貸借対照表の流動資産、投資その他の資産、流動負債及び固定負債に掲記する。ただし、次の場合には、それぞれを相殺して表示する。

@                    流動資産に属する繰延税金資産と流動負債に属する繰延税金負債とがある場合

A                    投資その他の資産に属する繰延税金資産と固定負債に属する繰延税金負債とがある場合

 ただし、連結財務諸表の場合、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、相殺してはならない。

法人税等調整額の表示

 当期の法人税等として納付すべき額及び法人税等調整額は、法人税等を控除する前の当期純利益から控除する形式により、それぞれ区分して表示する。

キャッシュ・フロー計算書

キャッシュ・フロー計算書の概要

キャッシュ・フロー計算書の定義

 キャッシュ・フロー計算書は、企業の一会計期間におけるキャッシュ・フローの状況を報告するために作成する書面である。

キャッシュ・フロー計算書作成の目的

 今日の発生主義会計においては、企業の経営成績及び財政状態を把握することはできても、その資金的な面について、これを明かにすることは困難である。すなわち、損益計算書と貸借対照表からでは、一会計期間のキャッシュ・フローも、また、企業がどの活動からキャッシュ・フローを獲得し、これをどのような活動に投資したのかなどもわからない。

 このために、企業の一会計期間における営業活動、投資活動及び財務活動によるキャッシュ・インフロー及びキャッシュ・アウトフローに関する状況を明らかにし、企業が将来のキャッシュ・インフローを生み出す能力、債務や配当を支払う能力等の情報提供を可能とするために、キャッシュ・フロー計算書が作成される。

 証券取引法の適用を受ける企業は、連結財務諸表の1つとして連結キャッシュ・フロー計算書を作成し、公表するよう義務づけられている。また、連結財務諸表を作成しない場合は、個別企業としてのキャッシュ・フロー計算書を作成し、公表しなければならない。

資金の範囲

 キャッシュ・フロー計算書で、対象とする資金の範囲は現金(手許現金及び要求払預金)及び現金同等物である。

 現金同等物は、容易に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わない短期投資であり、価格変動リスクの高い株式等は資金の範囲から除かれる。

 連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準においては、資金の範囲に含めた現金及び現金同等物の内容、キャッシュ・フロー計算書の現金及び現金同等物の期末残高と貸借対照表上の科目との関連性を注記することとしている。なお、資金の範囲を変更した場合には、その旨、その理由及び影響額についても注記することとしている。

キャッシュ・フロー計算書の作成

表示区分

 キャッシュ・フロー計算書においては、一会計期間におけるキャッシュ・フローを、営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー及び財務活動におけるキャッシュ・フローの3つに区分して表示する。

 営業活動によるキャッシュ・フローの区分には、商品及び役務の販売による収入、商品及び役務の購入による支出等、営業損益計算の対象となった取引のほか、投資活動及び財務活動以外の取引によるキャッシュ・フローを記載する。

 投資活動によるキャッシュ・フローの区分には、固定資産の取得及び売却、現金同等物に含まれない短期投資の取得及び売却等によるキャッシュ・フローを記載する。

 財務活動によるキャッシュ・フローの区分には、株式の発行による収入、自己株式の取得による支出、社債の発行・償還及び借入れ・返済による収入・支出等、資金の調達及び返済によるキャッシュ・フローを記載する。

作成方法

 キャッシュ・フロー計算書の作成方法には、直接法と間接法とがある。

 直接法は、期中の収入額と支出額の総額を記載することにより、期中における資金の増減を直接的に明らかにする方法である。

 直接法により作成されたキャッシュ・フロー計算書は、企業の収支を総額で表示するという長所を有する。一方、取引ごとにキャッシュ・フローに関する基礎データを用意することが必要であり、実務上手数を要するという短所を有する。

 間接法は、損益計算書の当期純利益に所定の調整を加えることにより、期中の資金変化額を間接的に明らかにする方法である。

 間接法により作成されたキャッシュ・フロー計算書は、当期純利益とキャッシュ・フローの関係を明示することができるという長所を有する。

中間財務諸表

中間財務諸表の概要

中間財務諸表の定義

 中間財務諸表とは、事業年度を1年とする企業が年度の中間期までの期間を対象とした財務諸表をいう。

中間財務諸表作成の目的

 中間財務諸表は、事業年度を1年とする企業の投資者を保護するために、タイムリー・ディスクロージャーの観点より作成される。

中間財務諸表の公表制度

 証券取引法は、事業年度を1年とする企業に対して、上半期(事業年度開始の日から6ヶ月間)の経済状況を投資者に知らせるため、半期報告書とよばれる書類を作成し、その中に中間財務諸表を含めて開示することを要求している。

 中間財務諸表は、個別ベースの中間財務諸表のみならず、連結中間財務諸表も作成し公表されることになっている。

中間財務諸表の種類

 中間連結財務諸表は、以下の4種類からなる。

@                    中間連結貸借対照表

A                    中間連結損益計算書

B                    中間連結剰余金計算書

C                    中間連結キャッシュ・フロー計算書

 個別ベースの中間財務諸表は、以下の3種類からなる。

@                    中間貸借対照表

A                    中間損益計算書

B                    中間キャッシュ・フロー計算書

中間財務諸表の性格

 中間財務諸表の性格については、実績主義と予測主義の2つの考え方がある。

 なお、中間連結財務諸表等の作成基準においては、実績主義を採用することとしている。

実績主義

 実績主義とは、中間会計期間を事業年度と並ぶ一会計期間とみたうえで、中間財務諸表を、原則として年度の財務諸表と同じ会計処理基準を適用して作成することにより、当該中間会計期間の財政状態及び経営成績に関する情報を提供するものとする考え方である。

予測主義

 予測主義とは、中間会計期間を事業年度の一構成部分と位置付けて、中間財務諸表を、部分的には年度の財務諸表と異なる会計処理基準を適用して作成することにより、当該中間会計期間を含む事業年度の業績の予測に資する情報を提供するものとする考え方である。

中間財務諸表の一般原則

 中間財務諸表作成基準では、有用性の原則及び継続性の原則の2つの一般原則を明示している。

有用性の原則

一般原則、一

 中間財務諸表は、中間会計期間に係る企業の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に関し、有用な情報を提供するものでなければならない。

 有用性の原則は、中間財務諸表を実績主義に基づき作成することを要求している。

 なお、中間決算手続は、必ずしも年度決算財務諸表における決算手続と同様である必要はなく、中間決算に特有の簡便な手続をとることも認められる。

継続性の原則

一般原則、二

 前事業年度において採用した会計処理の原則及び手続は、中間会計期間においてこれを継続して適用し、みだりに変更してはならない。

 継続性の原則は、財務諸表の期間比較性の確保及び経営者の利益操作の排除のために必要とされる。

 なお、ここにいう継続性の原則には、中間決算と年度決算の会計処理の継続性及び中間決算どうしでの会計処理の継続性も含まれる。

中間財務諸表の作成基準

 実績主義による中間財務諸表を作成するための会計処理基準は、原則として年度決算に適用される会計処理の原則及び手続と同じである。

 しかし、年度決算時には、事業年度全体を対象とした会計処理が改めて行われるため、中間決算数値の修正が必要になることがある。

 また、中間決算では、利害関係者の判断を誤らせない限り、簡便な手続を適用することが認められる。

リース会計

リース会計の概要

リース取引の定義

 リース取引とは、特定の物件の所有者たる貸手(レッサー)が、当該物件の借手(レッシー)に対し、合意された期間(リース期間)にわたりこれを使用する権利を与え、合意された使用料(リース料)を貸手に支払う取引をいう。

リース取引の分類

 リース取引は、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引とに分類される。

 ファイナンス・リース取引とは、リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除できることができないリース取引又はこれに準ずるリース取引で、借り手が、当該契約に基づき使用する物件(リース物件)からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引をいう。

 オペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース取引以外のリース取引をいう。

リース取引と実質優先の原則

 リース取引は、これを借手から見れば、法的にはリース物件を賃借りしてリース料という使用料を支払う形式をとっているが、リース取引のうち特にファイナンス・リース取引についてみれば、その経済的な実質は、リース対象の物件を購入したうえで、その代金をリース期間にわたって長期に分割払いしている、または、リース会社から借り入れた資金でリース対象の物件を購入したうえで、借入金の元利合計をリース料という名目でリース会社に分割返済していると考えてもよい。

 したがって、ファイナンス・リース取引については、取引の法的形式よりも経済的実質を重視する実質優先の原則より、賃貸借取引ではなく、売買取引として会計処理すべきこととなる。すなわち、借手はリース物件を自己の有形固定資産として貸借対照表に計上するとともに、将来のリース期間にわたって支払うべきリース料を評価して負債に計上すべきことになる。

ファイナンス・リース取引の会計処理

借手側の会計処理

リース資産とリース債務の計上

 ファイナンス・リース取引では、リース開始時において、原則として通常の売買取引に準じて会計処理を行う。すなわち、借手側においては、リース物件を資産計上し、リース期間にわたってリース料を支払う義務を評価し、これをリース債務として負債計上する。
 この場合、リース料総額がそのままリース資産やリース債務の評価額になるのではない。なぜならば、リース期間は長期にわたるため、リース料のうちには多額の利息部分が含まれているからである。したがって、これらの評価額はリース料総額から利息相当額を控除して算定される。その算定は将来キャッシュ・フローの割引現在価値の考え方によりなされ、この場合の割引利子率は貸手の計算利子率、すなわち貸手がこの取引により何パーセントの利益率を達成しようとしているのかを表す利子率を用いるべきことになる。

リース資産の減価償却とリース料の支払

 有形固定資産として計上したリース資産は、決算ごとに減価償却を行う。その計算は通常の減価償却に準じて行うが、所有権移転型以外のファイナンス・リース取引の物件については、リース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして算定することになる。
 リース料については、その支払が行われるごとに、リース債務の減少として記録する。ただし、支払リース料は、リース債務の元金の返済部分と利息相当額とを含んでいることから、リース債務の減少部分と利息部分を区別して会計処理を行う。

貸手側の会計処理

リース債権の計上

 ファイナンス・リース取引では、リース開始時において、原則として通常の売買取引に準じて会計処理を行う。すなわち、貸手側においては、リース期間にわたってリース料を受取る権利を評価し、これをリース債権として資産計上し、リース物件を購入した代金の未払額を負債計上する。

リース料の受取

 リース料については、その受取が行われるごとに、リース債権の減少として記録する。ただし、受取リース料は、リース債権の元金の回収部分と利息相当額とを含んでいることから、リース債権の減少部分と利息部分とを区別して会計処理を行う。なお、この場合における利息相当額が、貸手側たるリース会社の利益であることになる。

研究開発費等の会計

会計基準の整備の必要性

 近年の、企業の研究開発活動の広範化、高度化、ソフトウェアの製作・利用活動の拡大を背景として、研究開発費等に関する会計基準の内外企業間の比較可能性を改善するために、会計基準を整備する必要が生じた。

研究開発費等の定義

研究・開発の定義

 研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探求をいう。

 開発とは、新しい製品・サービス・生産方法(製品等)についての計画もしくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画もしくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化することをいう。

ソフトウェアの定義

 ソフトウェアとは、コンピュータを機能させるように指令を組み合わせて表現したプログラムをいう。

研究開発費に係る会計処理

研究開発に係る会計処理

 研究開発費は、全て発生時に費用として処理しなければならない。その場合、一般管理費として処理する方法と当期製造費用として処理する方法とがある。

 なお、ソフトウェア制作費のうち、研究開発に該当する部分も研究開発費として費用処理する。

研究開発費に係る会計処理の根拠

 研究開発費について、発生時に費用処理することが要求されるのは、以下の理由による。

@                    商法のように、資産計上と費用処理の任意選択を認めると、企業間での財務諸表の比較可能性が失われること。

A                    資産計上の根拠となる、将来の収益の獲得可能性については、一般に非常に大きな不確実性があること。

B                    一定の要件を満たすものに資産計上を強制しようとしても、その用件を実務上での客観的判断が可能な形で規定することが困難であること。

研究開発費に係るディスクロージャー

 一般管理費及び当期製造費用に含まれる研究開発費の総額は、財務諸表に注記しなければならない。

 なお、ソフトウェアに係る研究開発費については、研究開発費の総額に含めて財務諸表に注記する。

 研究開発費の総額が財務諸表に注記されるのは、研究開発の規模について企業間の比較可能性を担保するためである。

物価変動会計

物価変動会計の概要

取得原価主義会計の問題点

 取得原価主義会計は、物価の変動が及ぼす諸々の影響を的確に反映しておらず、その結果、そのような財務諸表は物価変動時に、以下のような点において、企業の経済的実態を正しく示していないこととなる。

@                    総資産額、純資産額、総資本利益率、1株当たり純資産額などについて、経済的実態を的確に反映した数値が得られない。

A                    売上原価及び減価償却費がその取得原価に基づく費用として売上高に対応されるため、当期利益中における保有利得と操業利益とが区別して示されない。

B                    減価償却累計額が取得原価に基づいて算出されるため、当該資産の再調達の必要な資金が十分に回収されているかどうかについての情報が不足する。

C                    取得原価主義会計は、物価変動に伴う貨幣購買力変動が企業会計に与える影響を計算対象としないため、この点に関する情報を提供しない。

物価変動会計の類型

 物価変動という経済事象は、これを一般物価水準の変動という局面と、個別価額の変動という局面とに分けて把握することができる。したがって、物価変動会計は、@一般物価変動会計(貨幣価値変動会計)とA個別価格変動会計、さらにそれらを組み合わせたB結合会計とに分類される。

物価変動会計の内容

一般物価変動会計

一般物価変動会計の概要

 一般物価変動会計(貨幣価値変動会計)とは、取得原価主義会計による数値を、一般物価の変動(貨幣価値の変動)分だけ修正する会計であり、修正原価主義会計ともよばれている。
 制度会計上の測定単位である名目貨幣単位は、一般物価水準の変動に直面するとその同質性を失い、統一的測定単位としての機能が果たせなくなる。そこで、一般物価変動会計は、名目貨幣単位に代えて現在購買力単位を採用することによって、すべての会計数値を期末時点の購買力をもつ貨幣単位によって統一的に表し、これにより会計数値の比較可能性が保証されることになるのである。
 また、貨幣項目について生ずる購買力利得又は損失(貨幣購買力損益)の認識を可能にする。

一般物価変動会計の手続

@                     貨幣項目と非貨幣項目の区別
 貸借対照表項目のうち、貨幣項目については、貨幣購買力損益をこうむることになるため、貨幣購買力損益を計算すべきこととなる。これに対し、非貨幣項目は一般物価修正を要する。
 そこで、一般物価変動会計においては、まず、貸借対照表項目について、貨幣項目と非貨幣項目に区別する。
A                     非貨幣項目についての修正
 貸借対照表項目のうちの非貨幣項目と損益計算書項目について、決算日現在の購買力を示す貨幣で測定し直すために、各項目につき、その入帳時点における一般物価指数と決算日現在の一般物価指数の比(一般物価変動率)で修正する。
B                     貨幣購買力損益の計算
 貸借対照表項目のうちの貨幣項目についての購買力損益は、取得原価主義会計による決算整理後試算表項目に上記Aの修正を加え、その貸借差額を計算することによって求められる。

個別価格変動会計

個別価格変動会計の概要

 個別価格変動会計とは、個別価格の変動、すなわち個々の財貨・用役の時価の変動を会計計算に反映させるものであり、時価主義会計ともよばれている。
 個別価格変動会計には、企業が保有する資産をその評価時点において再購入すると仮定した場合の価格を重視する現在原価会計(カレント・コスト会計)と、資産を評価時点において売却すると仮定した場合の価格を重視する売却時価会計とがあるが、個別価格変動会計といえば、一般的に前者を指す場合が多い。
 個別価格の変動は、一般物価水準の変動とは局面を異にするものであり、そのような個別価格の変動が企業にいかなる影響を及ぼしたかを明らかにするために、個別価格変動会計が必要とされる。
 この会計によれば、未実現保有利得及び実現保有利得並びに操業利益が明確に区別して把握することが可能となる。

個別価格変動会計の手続

@                     非貨幣資産の時価修正
 貸借対照表項目のうち、非貨幣資産について時価を付し、時価と原価との差額は未実現保有利得として処理する。
A                     損益計算書項目の時価修正
 損益計算書項目のうち、減価償却費等のように取得原価を基礎としているものについて時価修正を行う。また、未実現保有利得のうち当期中に実現した分、例えば、償却資産の時価評価増分のうち当期償却分は、実現保有利得に計上する。これにより、当期純利益が実現保有利得と操業利益とに分解表示される。

結合会計

 結合会計とは、一般物価変動会計と個別価格変動会計とが、それぞれ物価変動の一局面しか把握しえないという限界を相互に補完するため、両会計を結合したものであり、名目貨幣単位で測定されている現在原価数値を、期末現在の購買力をもつ貨幣単位で修正するものであることから、修正現在原価会計ともよばれている。

 この会計によれば、現在原価会計上の操作利益及び保有利得の額から一般物価水準の変動の影響額を除去するとともに、貨幣項目について生ずる購買力損益の額を積極的に把握することが可能となる。

外貨換算会計

外貨換算会計の概要

外貨建取引と換算

 外貨建取引とは、売買価額その他の取引価額が外国通貨で表示されている取引をいう。外貨建取引が行われると、企業の会計数値の一部に外貨で表示されたものが混入してくることになるが、これらは最終的には日本円による金額へと変換し、日本円で測定されているものと統合されなければならない。このように、外国通貨を用いて測定表示された会計項目を、日本円によって表現し直す手続を換算という。

外貨換算会計における3つの領域

 外貨表示された会計項目の換算には、次の3つの領域に区別されることができる。

@                    日本国内に所在する本店が外国の取引先との間で行う外貨建取引、及びその結果として当該本店の財務諸表に含まれることになる外貨表示の資産・負債の換算

A                    日本国内に所在する本店が外国に支店を有している場合、当該在外支店が現地通貨により作成した財務諸表を本店の財務諸表と合併するための換算

B                    日本国内に所在する本店が外国に子会社又は関連会社を有している場合、当該在外子会社等が現地通貨により作成した財務諸表を連結あるいは持分法を適用するための換算

外貨換算の方法

 外貨換算の方法は、複数レート法と単一レート法とに大別される。複数レート法は、流動・非流動法、貨幣・非貨幣法及びテンポラル法に分類される。また、単一レート法は決算日レート法が該当する。

流動・非流動法

 流動・非流動法とは、外貨表示の項目を流動項目と非流動項目とに分類し、流動項目には決算時の為替相場(CR:currennt rate)を適用し、非流動項目には過去における取得時又は発生時の為替相場(HR:historical rate)を適用して換算を行う方法である。

 この方法は、流動項目に限ってはCRにより換算しなおしたことから生ずる換算差額という未実現損益が生じるが、これらについては相対的に短期のうちに収支を伴って解消したり収益や費用に転化することから、そこに生じる未実現損益もほぼ実現に近い状態に達していると考えるものである。

 しかし、この方法によると、会計理念上同質の性質をもっているものでも、流動項目にはCRが、非流動項目にはHRが適用されるといった不合理性や、性質が全く異なるにもかかわらず分類上は流動項目とされるものに対し、等しくCRが適用されるといった矛盾点が生じる。

貨幣・非貨幣法

 貨幣・非貨幣法とは、外貨表示の項目を貨幣項目と非貨幣項目とに分類し、貨幣項目にはCRを適用し、非貨幣項目にはHRを適用して換算を行う方法である。

 この方法は、現行会計上の資産・負債の基準と一致している点において、合理性を見いだすものである。すなわち、貨幣項目については、CRが適用されるために、それぞれ決算時における回収又は弁済額が示され、一方、非貨幣項目についてはHRが適用されるために、取得時の円による支払対価がそのまま示されることになる.

 しかし、この方法によると、棚卸資産に低価基準を適用して評価減を行った場合のように、非貨幣項目であっても決算日現在の時価を表すものに関してもHRが適用されることとなるといった矛盾が生じる.

テンポラル法

 テンポラル法とは、外貨表示の各項目の金額が、現地通貨による取得原価で評価されている項目についてはHRを適用し、現地通貨による時価で評価されている項目についてはCRを適用して換算を行う方法であり、既に外貨で測定済の数値の属性を重視する考え方であることから、属性法ともよばれる。

 この方法は、貨幣・非貨幣法を発展させたものとして位置づけられ、基本的には貨幣・非貨幣法と同じ換算を行う。由いつの相違は、外貨による時価が付された非貨幣項目がテンポラル法ではCRで換算される点である。これは、外貨ですでに測定が完了している数値の属性を変更してはならないという換算の本質から判断して、合理的であると考えるものである。

決算日レート法

 決算日レート法とは、外貨表示のすべての項目(在外支店の本店勘定及び在外子会社の資本勘定を除く)について、CRという単一レートで換算する方法である。

 この方法は、すべての項目にCRを適用する点で、実践的にも簡便である。

 しかし、非貨幣項目にもCRを適用することから、現行会計上の資産・負債の計上基準と一致しなくなるという矛盾が生じる。

外貨建取引の換算

取引時の会計処理

 外貨建取引が行われた場合、当該取引発生時の為替相場(HR)による円換算額をもって記録する。

 ここに取引発生時の為替相場(HR)とは、@取引が発生した日における直物為替相場、又はA合理的な基礎に基づいて算定した平均相場をいう。ただし、1に代えて、取引発生の直近の一定期日の直物為替相場を用いてもよい。

決算時の会計処理

外国通貨

 外国通貨については、決算時の為替相場(CR)を付す。
 ここに決算時の為替相場(CR)とは、@決算日の直物為替相場のほか、A決算日の前後一定期間の直物為替相場に基づいて算出された平均相場を用いることができる。

換算差損益の処理

 外貨建取引から生じた資産・負債項目は、取引発生時点の為替相場を用いて円換算されるが、その後の為替相場の変動により、各決算時点でCRによって換算替えが行われることから生じる為替換算差額と、取引の決済に伴って生じる為替決済損益が生じる。これらの会計処理については、一取引基準と二取引基準とがある。
 一取引基準とは、外貨建取引とそれに伴って生じる債権・債務等の代金決済取引とを連続した一つの取引とみなして会計処理を行う基準であり。これに対し、二取引基準は、外貨建取引とそれに伴って生じる債権・債務等の代金決済取引とを別個の取引とみなして会計処理を行う基準である。
 一取引基準では、財貨取引と決済取引が分離されないため、為替相場の変動に応じて商品等の取得原価の修正が必要となるのに対し、二取引基準では、財貨取引と決済取引が別個の取引とみなされるため、商品等の取得原価は、財貨取引時の為替相場によって確定し、その後の相場変動による円価額の変化分は、為替換算差額又は為替決済損益として処理される。
 いずれの基準によっても、通算した利益の合計額は同じであるが、二取引基準では為替相場の変動の影響が営業損益とは区別して認識されるのに対し、一取引基準では相場変動の影響が売上原価を通じて営業損益に混入する点で相違する。また、一取引基準には、決済が完了するまで、収益・費用や資産の金額を確定できないという問題もある。
 外貨建取引等会計処理基準においては、二取引基準を採用することとしている。したがって、為替換算差額と為替決済損益はともに為替差損益として損益計算書の営業外収益の部に計上される。

為替予約の会計処理

為替予約の概要

 為替予約とは、外国為替の業務を行う銀行との間で、企業が将来に外貨と日本円を交換するときに適用される為替相場を、前もって契約しておくことをいう。この場合に適用される為替相場を先物為替相場といい、為替予約の取引で用いられる相場であることであることから、特に予約レートとよばれる。
 為替予約を付することにより、外貨建取引における為替相場の変動に伴うリスク(為替リスク)を回避(ヘッジ)することが可能となる。

為替予約の会計処理方法

 為替予約の会計処理方法には、振当処理方式と独立処理方式とがある。
 振当処理方式とは、為替予約取引を外貨建金銭債権債務等に振当てて円換算額を算定する方法であり、独立処理方式とは、為替予約取引自体を外貨建取引又は外貨建金銭債権債務等とは別個の取引として会計処理を行う方法である。
 なお、外貨建取引等会計処理基準においては、振当処理方式を採用することとしている。

取引以前に為替予約が付されている物品売買・役務授受取引の場合

 外貨建の物品売買取引・役務授受取引につき、当該取引以前に為替予約が付されている場合には、外貨建取引の発生と同時にその予約レートに基づく円換算額をもって記録する。これは、外貨建取引の発生と同時に、最終的な決算額が日本円によってすでに確定していることから、そのような取引は事実上、円建取引とみることができるためである。
 この場合、決算時に計上される外貨建金銭債権債務についても、予約レートに基づく円換算額がそのまま引き継がれる。したがって、為替差損益が計上されることはない。

取引以前に為替予約が付されている物品売買・役務授受以外の場合

 外貨建取引につき、当該取引後に為替予約が付されている場合には、取引発生時の為替レートによる外貨建金銭債権債務の円換算額と予約レートによる外貨建金銭債権債務の円換算額との差額(為替予約差額)が生じることになる。当該為替予約差額は、取引発生時と予約時の直物レートどうしの差額(直直差額)と予約時の直物レートと予約レートとの差額(直先差額)からなるが、このうち、直直差額は取引時と予約時の円貨と外貨との交換レートの差額を意味するので為替差損益として処理し、直先差額は円貨と外貨との金利差から生じるものであるので、利息の調整項目として処理するのが理論的である。

在外支店の財務諸表項目の換算

 外貨建取引等会計処理基準では、在外支店の財務諸表項目の換算基準について、本店の外貨建項目に関する規定は、そのまま在外支店に関する換算に準用することとされている。そして、本店の換算基準として規定されていない項目については、テンポラル法が適用される。

 このような換算基準が採られるのは、在外支店の財務諸表は個別財務諸表の構成要素となることから、本店の外貨建項目の換算基準と整合的であることが望ましいとする、本国主義の思考に基づいていることによる。

在外子会社等の財務諸表項目の換算

 外貨建取引等会計処理基準では、在外子会社等の財務諸表項目の換算基準について、決算日レート法が採用される。

 このような換算基準が採られるのは、在外子会社等は親会社からある程度独立性を有する点で支店とは相違し、在外子会社の財務諸表は、それ自体が1つの完結した経済活動の結果を表すものとみなされることから、項目相互間の関係を変えることがないように、その財務諸表の全体を単一レートで換算しようとする、現地主義の思考に基づいていることによる。

 なお、決算日レート法のもとでは、資産及び負債はすべてCRで換算されるが、親会社に対する債権及び債務は、連結決算上で親会社の対応項目と相殺消去するために、親会社が用いたのと同じレートにより換算する。また、子会社等の資本勘定も、連結決算上で親会社の投資勘定と相殺消去するために、親会社による子会社株式取得時に存在した項目は、当該株式の取得時のレートで換算し、親会社による子会社株式の取得日後に生じた項目は、当該項目の発生時のレートで換算する。

金融商品の会計

会計基準の整備の必要性

 我が国における会計基準において、従来、金融商品に係る時価情報の提供は広範に行なわれてきたが、最近の証券・金融市場のグローバル化や企業の経営環境の変化等に対応して企業会計の透明性を一層高めていくためには、注記による時価情報の提供にとどまらず、金融商品そのものの時価評価に係る会計処理をはじめ、新たに開発された金融商品や取引手法等についての会計処理の基準の整備が必要とされる状況に至っている。

 また、国際的な動向においても、金融商品の認識、貸借対照表価額、ヘッジ会計等に関する会計基準が明らかにされていることから、我が国においても、金融商品に関する諸課題全般に係る会計基準を設定することが求められている。

 このような背景より、金融資産及び金融負債の発生及び消滅の認識、金融商品の評価基準、貸倒見積高の算定方法、ヘッジ会計、複合金融商品等、金融商品に係る問題について新たな基準を設定する必要性が生じたのである。

金融商品の範囲等

金融資産及び金融負債の範囲

 金融商品は、金融資産と金融負債からなる。

 金融資産とは、現金預金、受取手形、売掛金及び貸付金等の金銭債権、株式その他の出資証券及び公社債等の有価証券並びに先物取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類似する取引(デリバティブ取引)により生じる正味の債権等をいう。

 金融負債とは、支払手形、買掛金、借入金及び社債等の金銭債務並びにデリバティブ取引により生じる正味の債務等をいう。

時価

 時価とは公正な評価額をいい、市場において形成されている取引価格、気配又は指標その他の相場(市場価格)に基づく価額をいう。市場価格がない場合には合理的に算定された価額を公正な評価額とする。

金融商品の認識

金融資産及び金融負債の発生の認識

 商品等の売買又は役務の提供の対価に係る金銭債権債務は、一般に商品等の受渡し又は役務提供の完了によりその発生を認識するが、金融資産又は金融負債自体を対象とする取引については、当該取引の契約時から当該金融資産又は金融負債の時価の変動リスクや契約の相手方の財政状態等に基づく信用リスクが契約当事者に生じるため、契約締結時においてその発生を認識することとした。

 したがって、有価証券については原則として約定時に発生を認識し、デリバティブ取引については、契約上の決済時ではなく契約の締結時にその発生を認識しなければならない。

金融資産及び金融負債の消滅の認識

金融資産の消滅の認識要件

 金融資産については、@当該金融資産の契約上の権利を行使したとき、A契約上の権利を喪失したとき又はB契約上の権利に対する支配が他に移転したときに、その消滅を認識する。したがって、例えば、@債権者が貸付金等の債権に係る資金を回収したとき、A保有者がオプション権を行使しないままに行使期限が到来したとき又はB保有者が有価証券等を譲渡したときなどには、それらの金融資産の消滅を認識することとなる。

金融負債の消滅の認識要件

 金融負債については、@当該金融負債の契約上の義務を履行したとき、A契約上の義務が消滅したとき又はB契約上の第一次債務者の地位から免責されたときに、その消滅を認識する。したがって、債務者は、@債務を弁済したとき又はAB債務が免除されたときに、それらの金融負債の消滅を認識することとなる。

金融資産及び金融負債の消滅の認識に係る会計処理

 金融資産又は金融負債がその消滅の認識要件を充たした場合には、当該金融資産又は金融負債の消滅を認識するとともに、それらの帳簿価額とその対価としての受払額との差額を当期の損益として処理する。
 金融資産又は金融負債の一部の消滅を認識する場合には、当該金融資産又は金融負債全体の時価に対する消滅部分の時価と残存部分の時価との比率により、当該金融資産又は金融負債の帳簿価額を消滅部分と残存部分の帳簿価額に按分する。
 また、金融資産又は金融負債の消滅に伴って新たに発生した金融資産又は金融負債は時価により計上する。

金融商品の評価

債権

 受取手形、売掛金、貸付金その他の債権の貸借対照表価額は、取得価額から貸倒見積高の基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。

 ただし、債権を債権金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得原価と債権金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒れ引当金を控除した金額としなければならない。

 一般的には、受取手形、売掛金、貸付金等の債権については市場がない場合が多く、客観的な時価を測定することが困難であると考えられるので、原則として時価評価は行わない。

 一方、債権の取得においては、債権金額と取得価額とが異なる場合がある。この差異が金利の調整であると認められる場合には、金利相当額を適切に各期の財務諸表に反映させることが必要である。したがって、債権については、取得原価と債権金額との差額を弁済期に至るまで毎期一定の方法で貸借対照表価額に加減する方法(償却原価法)を適用し、当該加減額は受取利息に含めて処理するのである。

有価証券

 有価証券については、保有目的等から分類し、それぞれ貸借対象表価額及び評価差額等の処理方法が決定されている。

(1)     売買目的有価証券

 時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券(売買目的有価証券)は、時価をもって貸借対象表価額とし、評価差額は当期の損益として処理する。
 売買目的有価証券については、投資者にとっての有用な情報及び企業にとっての財務活動の成果は有価証券の期末時点での時価に求められると考えることから、時価をもって貸借対照表価額とされる。また、売買目的有価証券は、売却することについて事業遂行上等の制約がないものと認められることから、その評価差額は当期の損益として処理される。

(2)     満期保有目的の債券

 満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債権(満期保有目的債権)は、取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、債権を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対象表価額としなければならない。
 満期保有目的の債券については、時価が算定できるものであっても、満期まで保有することによる約定利息及び元本の受取りを目的としており、満期までの間の金利変動による価格変動のリスクを認める必要がないことから、原則として、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額とされる。
 なお、このような考え方を採用するにあたっては、満期時まで保有する目的であることを債券の取得時及び取得時以降に確認し得ることが必要であり、保有目的が変更された場合には、当該変更後の保有目的にかかる評価基準により債券の帳簿価額を修正することが必要である。

(3)     子会社株式及び関連会社株式

 子会社株式及び関連会社株式は、取得原価をもって貸借対照表価額とする。
 子会社株式については、事業投資と同じく時価の変動を財務活動の成果とは捉えないという考え方に基づき、取得原価をもって貸借対象表価額とされる。
 連結財務諸表においては、子会社の純資産の実質価額が反映されることになる。
 関連会社株式については、個別財務諸表において、従来、子会社株式以外の株式と同じく原価法又は低価法が評価基準として採用されてきた。しかし、関連会社株式は、他企業への影響力の行使を目的として保有する株式であることから、子会社の場合と同じく事実上の事業投資と同様の会計処理を行うことが適当であり、取得原価をもって貸借対照表価額とされる。
 連結財務諸表においては、持分法により評価される。

(4)     その他有価証券

 売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券(その他有価証券)は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は洗い替え方式に基づき、次のいずれかの方法により処理する。
@     評価差額の合計額を資本の部に計上する。
A     時価が取得原価を上回る銘柄に係る評価差額は資本の部に計上し、時価が取得減価を下回る銘柄に係る評価差額は登記の損失として処理する。
 なお、資本の部に計上されるその他有価証券の評価差額については、税効果会計を適用し、資本の部において他の剰余金と区分して記載しなければならない。
 その他有価証券については、時価をもって貸借対象表価額とされるが、その他有価証券は直ちに売却することを目的としているものではないことに鑑みると、その他有価証券に付すべき時価に市場における短期的な価格変動を反映させることは必ずしも求められないと考えられることから、期末前1ヶ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額をもって期末の時価とする方法を継続して適用することも認められる。
 その他有価証券の時価の変動は投資者にとって有用な投資情報であるが、その他有価証券については、事後遂行上等の必要性から直ちに売買・換金を行うことには制約を伴う要素もあり、評価差額を直ちに登記の損益として処理することは適切ではないと考えられる。また、国際的な動向をみても、その他有価証券に類するものの評価差額については、登記の損益として処理することなく、資本の部に直接計上する方法等が採用されている。これらの点より、その他有価証券の評価差額を当期の損益として処理することなく、税効果を調整の上、資本の部において他の剰余金と区分して記載することになる。
 その他有価証券のうち時価評価を行ったものの評価差額は、資本の部に直接計上する方法によれば、当期の損益として処理されないこととなるが、他方、企業会計上、保守主義の観点から、これまで低価法に基づく銘柄の評価差額の損益計算社への計上が認められてきた。このような考え方を考慮し、時価が取得原価を上回る銘柄の評価差額は資本の部に計上し、時価が取得原価を下回る銘柄の評価差額は損益計算書に計上する方法によることもできることになる。この方法を適用した場合における損益計算書に計上する損失の計上方法については、その他有価証券の評価差額は毎期末の時価と取得原価との比較により算定することとの整合性から、洗い替え方式によることになる。

(5)     市場性のない有価証券

 市場価格のない有価証券の貸借対照表価額は、それぞれ次の方法による。
@     社債その他の債券の貸借対象表価額は、債券の貸借対象表価額に準ずる。
A     社債その他の債券以外の有価証券は、取得原価をもって貸借対象表価額となる。
 時価をもって貸借対象表価額とする有価証券であっても、市場価格がなく客観的な時価を把握することができないものもあることから、市場価格のない有価証券については取得原価又は消却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対象表価額とすることになる。

(6)     時価が著しく下落した場合

 満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式並びにその他有価証券のうち市場価格のあるものについて時価が著しく下落したときは、回復する見込はあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対象表価額とし、評価差額は当期の損失として処理しなければならない。
 市場価格のない株式については、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理しなければならない。
 なお、これらの場合には、当期時価及び実質価額を翌期首の取得原価とする。
 その他有価証券の時価評価について洗い替え方式をとっていることから、その時価が著しく下落したときには、取得減価まで回復する見込があると認められる場合を除き、当該銘柄の帳簿価額を時価により付け替えて取得原価を修正することが必要である。この場合には、当該評価差額を当期の損失として処理することになる。

(7)     有価所見の表示区分

 売買目的有価証券及び1年内に満期が到来する社債その他の有価証券は流動資産に属し、それ以外の有価証券は投資その他の資産に属する。

運用目的の金銭信託

 運用を目的とする金銭信託(合同運用を除く)は、当該信託財産の構成物である金融資産及び金融負債について、本基準により付されるべき評価額を合計した額をもって貸借対象表価額とし、評価差額は当期の損益として処理する。

 運用目的の信託財産の構成物である有価証券は、売買目的有価証券とみなしてその評価基準に従って処理する。

 運用を目的とする金銭信託については、企業が当該金銭の信託にかかる信託財産を構成する金融資産及び金融負債を運用目的で間接的に保有しているものと考えられる。加えて、金銭の信託契約の満了時に、当該金銭の信託にかかる信託財産又はそれを時価により換金した現金により支払いを受ける場合、投資者及び企業双方にとって意義を有するのは信託財産の時価であると考えられる。したがって、運用を目的とする金銭の信託の貸借対象表価額には、信託財産を構成する金融資産および金融負債のうち時価評価が適切であるものについて、その時価を反映することが必要となる。

デリバティブ取引

(1)  デリバティブの概要

 デリバティブ(派生金融商品)とは、現物市場における株式・通貨等の原資産の価格や指標に基づいて、原資産の交換などを将来時点において行うことを現在時点で約束した契約対象である。
 デリバティブ取引には、種々のものがあるが、大きくは、@先物取引(及び先渡し取引)、Aオプション取引、Bスワップ取引に分類される。そして、これらの取引と、基礎となる原資産との組み合わせにより、さまざまな種々のデリバティブ取引が存在することになる。

(2)  デリバティブの評価

 デリバティブ取引により生じる正味の債券及び債務は、時価をもって貸借対象表価額とし、評価差額は、原則として、当期損益として処理する。
 デリバティブ取引は、取引により生じる正味の債券又は債券の時価の変動により保有者が利益をえ又は損失を被るものであり、投資者及び企業双方にとって意義を有する価値は当該正味の債権又は債務の時価に求められると考えられる。したがって、デリバティブ取引により生じる正味の債券及び債務については、時価をもって貸借対象表価額とすることになる。また、デリバティブ取引により生じる正味の債券又は債務の時価の変動は、企業にとって財務活動の成果であると考えられることから、その評価差額は、ヘッジに係るものを除き、当期損益として処理することになる。
 なお、デリバティブ取引については、一般に、市場価格又はこれに基づく合理的な科学により時価が求められるが、デリバティブ取引の対象となる金融商品に市場価格がないこと等により公正な評価額を算定することが困難と認められる場合には、取得価額をもって貸借対象表価額とすることになる。

金銭債務

 支払手形、買掛金、借入金その他の債務は、債務額をもって貸借対象表価額とする。

 社債は、社債金額をもって貸借対象表価額とする。社債を社債金額よりも低い価額又は高い価額で発行した場合には、当該差額に相当する金額を資産又は負債として計上し、償還期に至るまで毎期一定の方法で償却しなければならない。

 金融負債は、借入金のように一般的には市場が内科、社債のように市場があっても、事故の発行した社債を時価により事由に清算するには事業遂行上等の制約があると考えられることから、デリバティブ取引により生じる正味の債務を除き、債務額を貸借対象表価額とし、時価評価の対象としないことが適当であると考えられる。

貸倒見積高の算定

債券の区分

 貸倒見積高の算定にあたっては、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて、債権を次のように区分する。

@     経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権(一般債権)

A     経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権(貸倒懸念債権)

B     経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権(破産更生債権)

貸倒見積高の算定方法

(1)  一般債権

 一般債権については、債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準により貸倒見積高を算定する。

(2)  貸倒懸念債権

 貸倒懸念債権については、債権の状況に応じて、次のいずれかの方法により貸倒見積高を算定する.ただし、同一の債権については、債務者の財政状態及び経営成績の状況等が変化しない限り、同一の方法を継続して適用する。
@     債権額から担保の処分見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法
A     債権の元本の回収及び利息の受け取りにかかるキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権については、債権の元本及び利息について元本の回収及び利息の受け取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法

(3)  破産更生債権

 破産更生債権等については、債権額から担保の処分見込額及び保障による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とする。

ヘッジ会計

ヘッジ会計の概要

 ヘッジ会計とは、ヘッジ取引のうち一定の要件を満たすものについて、ヘッジ対象に係る損益とヘッジ手段にかかる損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を会計に反映させるための特殊な会計処理をいう。

 ヘッジ取引とは、ヘッジ対象の資産又は負債にかかる相場変動を相殺すること等を目的として、デリバティブ取引をヘッジ手段として用いる取引をいう。

 ヘッジ手段であるデリバティブ取引については、原則的な処理方法によれば時価評価され損益が認識されることとなるが、ヘッジ対象の資産にかかる相場変動等が損益に反映されない場合には、両社の損益が期間的に合理的に対応しなくなり、ヘッジ対象の相場変動等による損失の可能性がヘッジ手段によってカバーされているという経済的実態が財務諸表に反映されないこととなる。このため、ヘッジ対象及びヘッジ手段にかかる損益取引を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を財務諸表に反映させるヘッジ会計が必要と考えられる。

ヘッジ対象とヘッジ手段

(1)  ヘッジ対象

 ヘッジ会計が適用されるヘッジ対象は、@相場変動等による損失の可能性がある資産又はふさいで、当該資産又は負債にかかる相場変動等が評価に反映されていないもの、A相場変動等が評価に反映されているが評価差額が損益として処理されないもの若しくはB当該資産又は負債にかかるキャッシュ・フローが固定されその変動が回避されるものである。

(2)  ヘッジ手段

 ヘッジ手段として最も一般的に用いられるのは、デリバティブ取引であるが、この他に、ヘッジ手段として有効であると認められる現物資産についても、ヘッジ手段となりうる。

ヘッジ会計の方法

(1)  ヘッジ取引に係る損益認識時点

 ヘッジ会計は、原則として、時価評価されているヘッジ手段にかかる損益又は評価差額を、ヘッジ対象にかかる損益が認識されるまで資産又は負債として繰り延べる方法(繰延ヘッジ会計)による。
 ただし、ヘッジ対象である資産又は負債にかかる相場変動等を損益に反映させることにより、その損益とヘッジ手段にかかる損益とを同一の会計期間に認識すること(時価ヘッジ会計)もできる。
 金融資産にかかる会計基準において、繰延ヘッジ会計を原則としたのは、この方法のほうが我が国の会計処理としてなじみやすいこと、また、時価ヘッジ会計が実行できるのは、時価評価が可能なヘッジ対象に限られるという理由による。

(2)  ヘッジ会計の要件が充たされなくなったときの会計処理

 ヘッジ会計が充たされなくなったときは、ヘッジ会計の要件が充たされていた間のヘッジ手段に係る損益又は評価差額は、ヘッジ対象にかかる損益が認識されるまで引き続き繰り延べる。
 ただし、繰り延べられたヘッジ手段にかかる損益又は評価差額について、ヘッジ対象にかかる含み益が減少することによりヘッジ会計の終了時点で重要な損失が生じるおそれがあるときは、当期損失部分を見積もり当期の損失として処理しなければならない。
 これは、繰延ヘッジ会計を前提とした場合に、ヘッジ手段が先に決済されたような場合には、その後のヘッジ対象について生じる価格変動等のヘッジはなくなるが、ヘッジ期間中のヘッジ手段の損益が、ヘッジ対象が存続している限り、引き続き繰り延べられることを意味している。

(3)  ヘッジ会計の終了

 ヘッジ会計は、ヘッジ対象が消滅したときに終了し、繰り延べられているヘッジ手段にかかる損益又は評価差額は当期の損益として処理しなければならない。また、ヘッジ対象である予定取引が実行されないことが明らかになったときにおいても同様に処理する。
 ヘッジ対象が消滅したときは、一般的には、ヘッジ対象の売却等が考えられる。

複合金融商品

払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品の会計処理

(1)  新株引受権附社債

@     発行者側の会計処理
 新株引受権附社債の発行価額は、社債の対価部分と新株引受権の対価部分とに区分する。社債の対価部分は、普通社債の発行に準じて処理する。
 新株引受権の対価部分は負債の部に計上し、権利が行使されたときは資本準備金に振り替え、権利が行使されずに権利行使期限が到来したときは利益として処理する。
 新株引受権附社債は払込資本を増加させる可能性のある部分とそれ以外の部分が同時に各々に存在し得ることから、その取引の実態を適切に表示するため、それぞれの部分を区分して処理される。
 なお、発行者側の新株引受権部分の対価の取り扱いについては、新株引受権が行使された場合、当該対価は株式発行の対価としての性格が認められることになるから資本準備金に振り替えられることとなるが、権利行使の有無が確定するまでの間は、その性格が確定しないことから仮勘定として負債の部に計上される。
A     取得者側の会計処理
 新株引受権附社債の取得価額は、社債の対価部分と新株引受権の対価部分とに区分する。社債の対価部分は、普通社債の取得に準じて処理する。
 新株引受権の対価部分は、新株引受権として資産に計上し、権利を行使したときは株式に振り替え、権利を行使せずに権利行使期限が到来したときは損失として処理する。

(2)  転換社債

@     発行者側の会計処理
 転換社債の発行価額は、社債の対価部分と株式転換権の対価部分とに区分せず普通社債の発行に準じて処理する又は新株引受権附社債に準じて処理する。
 転換社債については、株式転換県が行使されると社債は消滅し、社債の償還権と株式転換権が同時に各々存在し得ないことから、それぞれの部分を区分して処理する必要性は乏しいと考えられる。したがって、転換社債については社債部分と株式転換権部分を区分せず一体とした処理が認められる。
A     取得者側の会計処理
 転換社債の取得価額は、社債の対価部分と株式転換件の対価部分とに区分せず普通社債の取得に応じて処理し、権利を行使したときは株式に振り替える。

その他の複合金融商品の会計処理

 契約の一方の当事者の払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合商品は、原則として、それを構成する個々の金融資産又は金融負債とに区分せず一体として処理する。

 このような複合金融商品を構成する複数種類の金融資産又は金融負債は、それぞれ独立して存在しうるが、複合金融商品からもたされるキャッシュ・フローは正味で発生する。このため、資金の運用・調達の実態を財務諸表に適切に反映させるという観点から、原則として、複合金融商品を構成する個々の金融資産又は金融負債を区分せず一体として処理する。

退職給付の会計

会計基準の整備の必要性

 我が国において多くの企業が企業年金を採用している状況にあって、近年、運用環境の変化等により、将来の年金給付に必要な資産の確保に懸念が生じているといわれている。企業年金にかかる情報は、投資情報としても企業経営の観点からも重要性が高まっており、年金資産や年金夫妻の現状を明らかにするとともに、企業の負担する退職給付費用について適正な会計処理を行い、国際的にも通用する会計処理及びディスクロージャーを整備いていくことが必要である。

退職給付に係る会計処理

負債の計上

(1)  負債の計上額

 退職給付債務に未認識過去勤務債務及び未認識数理計算上の差異を加減した額から年金資産の額を控除した額を退職給付にかかる負債として計上する。
 ただし、年金資産については、その額が企業年金制度にかかる退職給付債務に当該季語油年金制度にかかる未認識過去勤務債務及び未認識数理計算上の差異を加減した額を超える場合には、当該超過額を退職給付債務から控除することはできないものとし、前払年金費用として処理するものとする。

(2)  退職給付債務の計算

@     退職給付は、退職時に見込まれる退職給付の総額(退職給付見込額)のうち、期末までに発生していると認められる額を一定の割引率及び予想される退職時から現在までの期間(残存勤務期間)に基づき割り引いて計算する。
A     退職給付見込額は、合理的に見込まれる退職給付の変動要因を考慮して見積もらなければならない。
B     退職給付見込額のうち当期までに発生したと認められる額は、退職給付見込額について全勤務期間で除した額を各期の発生額とする方法その他従業員の労働の対価を合理的に反映する方法を用いて計算しなければならない。
C     退職給付債務の計算における割引率は、安全性の高い長期の債券の利回りを基礎として決定しなければならない。

(3)  年金資産

 年金資産の額は、期末における公正な評価額により計算する。

退職給付費用の処理

(1)  退職給付費用の処理額

 当期の勤務費用及び利息利息費用は退職給付費用として処理し、企業年金制度を採用している場合には、年金資産にかかる当期の期待運用収益相当額を差し引くものとする。なお、過去勤務債務及び数理計算上の差異に係る費用処理額は退職給付費用に含まれるものとする。

(2)  退職給付費用の計算

@     勤務費用は、退職給付見込額のうち当期に発生したと認められる額を一定の割引率及び残存勤務期間に基づき割り引いて計算する。
A     利息費用は、期首の退職給付債務に割引率を乗じて計算する。
B     期待運用収益相当額は、期首の年金資産の額について合理的に予測される収益率(期待運用収益率)を乗じて計算する。
C     過去勤務債務及び数理計算上の差異は、原則として、各期の発生額について平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理しなければならない。

財務諸表の表示

 貸借対照表において退職給付にかかる負債を計上するにあたっては、当該負債は原則として退職給付引当金の科目をもって計上する。

 新たに退職給付制度を採用したとき又は給付水準の重要な改定を行ったときに発生する過去勤務債務にかかる当期の費用処理額が重要であると認められる場合には、当該費用処理額を特別損失として計上することができる。